喉の手術も経験した(写真/黒石あみ)
「それまでの僕は『自己評価』や『自己肯定感』が低い人間だったと思います。仕事の話になりますが、クライアントの要求に応えられるからこそ自分に価値があるのだと思い込んでいました。だから、どんなオーダーや指示にも、絶対に応えられなければいけないと思っていた。それが出来ないなら、そんな自分は演者として価値がないと思っていました。
例えば、その指示が理不尽で、自分とクライアントの立場が対等ではないと感じたとしても、それを我慢して仕事を続けてきました。仕事のスケジュールをどう組み立てるのか? ということや、どの依頼を受けて、どの依頼を受けないのか? という選択も、当時のマネージャーに主導権があった。対等な関係ではありませんでした。理不尽な状況に感じるかたもいらっしゃるかもしれません。でも、これは他人に自分をハンドリングさせることや、心底嫌だと思っていることを我慢するということを、自分に対して許可していたということです。自分の人生の主導権を、他人に委ねるのが当たり前になっていたからこそ、耐え続けないといけない時間が日々増えていったんだと思っています。
その結果、ストレスと過労で、商売道具である喉を故障させました。当時の自分の症状は、手術に一度失敗してからの故障なので、いわゆる、声帯に出来た結節やポリープを『手術で切れば治る』という単純な症状ではありませんでした。なので治らない可能性がとても高かったです。
僕は声優がやりたくて生きてきていました。それなのに、もし二度と声が出なくなって声優の仕事ができなくなったとしても、その人生に対して責任を取ることが出来るのは自分しかいません。自分の身は自分で守るしかない。そう考えた時に、他人の機嫌や顔色を見て、自分の意見を引っ込めたり、相手を怒らせたくないという理由から、相手の意見に同調したり。そういう不本意なことを今後も繰り返していたら、一生同じ事の繰り返しだなと。“自分の人生の主導権を取り戻さないといけない── “と、強く思いました」
この力強い言葉は、声を扱うプロとして、徹底的に自分と向き合った細谷が語るからこそズシリと響くキーワードではないか。その後は自分の想いや考えなどをどんどん仕事で伝えるようになっていったという。