「アートみたいなレインボー綿あめが出てるだろう。インスタ映えするから、若い子はあっちへ行く。1つ800円くらいで売れるが、色のついた砂糖を次々に入れていくんで手間とコストがかかる。テキヤの綿あめはスプーン1杯のザラメだけで儲けはいいんだが、今の子供たちは甘くてふわふわの綿あめより、アニメのキャラクターがついた袋目当て。以前のようには売れない」
神社などの祭りでは、人気があって、よく売れる店が参道入り口に置かれてきた。参道の途中で人が大勢並んでしまうと、通行の邪魔になるため入り口に出店させるのだ。
「昔は綿あめ屋が参道の入り口に店を出していたものだが、今はベビーカステラや焼きそばに代わってきた」
あえてケパブやトッポギの店を出すケースも
焼きそばも屋台には欠かせない食べ物の1つだ。
「オレの知ってる店では、賞味期限ぎりぎりの麺を大量に仕入れている。キャベツもサイズが規格外だったり、形がいびつで流通できない、廃棄するしかないという端玉をごっそり仕入れてきて作る。
焼きそばの店も出したかったんだが、テキヤは場所によって、綿あめは2店、焼きそばも2店というふうに種類によって出店できる店の数が決まっていて、それ以上は出せないんでね」
そのため引退したり、廃業したりで空いた場所に、振り分けに関係なく手っとり早く出店するために、テキヤ稼業も外国人を雇って、ケバブやトッポギなど出店数が少ない外国料理の店を出すのだという。
「にわか仕立ての店でも、祭りではけっこう売れるからね」と言うので、味はどうかと尋ねてみると、意外な答えが返ってきた。
「オレは食べないよ。だって衛生管理のことが気になるからな」
屋台を出店するには食品衛生責任者を置き、出店するエリアの保健所に営業許可申請を出し、設備を整えた上で許可をもらう必要がある。だがそんなものは建前だと、元組長は言う。
「保健所の許可はいるけれど、テキヤが1日か2日出す店に、そこまでの衛生管理は求められていないようだ。水道を引いているわけでもなく、水をバケツに汲んできて、調理器具も手もそこで洗って終わり。屋台で点す白熱灯の明りに寄ってきた虫が、鉄板の熱で落下してしまい…、なんて店もあるんだ」
普通の飲食店や食料品店にはうるさいほど細かい保健所の衛生管理も、数日しかその場に出店していない屋台には、厳しくあたるのが難しいケースもあるようだ。。
「祭りの雰囲気に呑まれて、子供にせがまれて、そんなことは気にせず買ってしまう人もいるだろうが、そこら辺はちゃんと見たほうがいい」
これから秋祭りが本格化する。コロナの感染者数は減少傾向で、各地のお祭りではさまざまな屋台が出店され、多くの客で賑わうはずだ。
「まだまだ稼ぎ時だ」と、元組長はにやりと笑うのだった。