「ベテランの校正者がお書きになった本を読むとすごく面白いし勉強になります。
私の本は、仕事を始めた十数年前の私みたいな、校正という仕事がまだ全然わかっていない人に、私はこんな風に仕事してるんだよ、って話すような本があったらいいなと思って書きました」
牟田さんは出版社の校閲部の業務委託契約というかたちで働き始めた。2018年からはフリーランスになり、自宅で仕事をするようになった。
出版社でも、専門の校閲部のあるところはそれほど多くない。
「本当に恵まれた環境で仕事を始めることができたと思います。ベテラン社員から1年間みっちり指導を受けましたし、ゲラの読み方を隣で見ることもできました。
私がいたのは校閲部のフロアなので、周りが全部校正者なんですよね。みんな校正の話をしていて、『編集者がこういう赤字を入れるから誤植が出た』とか、起きてしまった事故の話を聞けたりしたのもすごく勉強になりました」
初めに担当したのが文芸誌だったことも大きい。表記の揺れひとつとっても、単純ミスなのか、作家が意図したものか、鉛筆を入れるのによく考えなくてはならない。
「著者の意図を、どこまで読んでも読みすぎることはない、という印象を最初に持ってしまったので、文芸誌を離れた後もあまり強気に鉛筆を入れられないですね」
どんなベテラン校正者でも、誤植を見落とすことがある。ミスはなくて当然、読者から「この本の校正が素晴らしかった」と言われることもなく、本の売り上げに直接、結びつくこともない。一方で、本への信頼をしっかり支えているのも校正という仕事だ。
「働くとは?」を考えるのは就職氷河期ゆえかも
校正者として働いているこの15年弱で、仕事そのものの変化は感じないが、取り巻く環境には変化を感じると言う。
「何が正しいか知りたがる傾向が強くなっているといったらいいんでしょうか。『これが正しい』と言い切る人がもてはやされますよね。校正もそういったひとつというか、『これが正しい』と断言する仕事だと思っている人がいる気がします。
校正者が何か指摘するときはあくまで、『どうしますか?』って聞いているのであって、『こうしろ』と言っているわけではないんです。それは昔から変わりません。だから、指摘した箇所に全部〇をつけられると、逆に怖いと思うこともあります。校正を生かすも殺すも編集者や著者次第で、指摘される側にも『校正され力』があるといいんですけれど」