五島列島で暮らす人々(NHK公式サイトより)
流暢な長崎弁に舌を巻く
舌を巻くのは、高畑さんによる長崎弁(五島弁)である。
「気づいとらんとね。(中略)舞はここにきてから、ずうっとめぐみの顔色ばうかがっている。(中略)舞はおまえに遠慮して自分の気持ちを言えんとさ」
時々、何を言っているのか? 聞いているこちらが分からなくなるときがあるほど、彼女の長崎弁は流暢なのである。いや、正確に言うとネイティブ長崎弁を知らない。それでも生活感満点の演技と合わせて見ていると、流暢という言葉がすらっと出てきてしまう。
そんな祥子を見ていたら、高畑さんが以前出演をした『ナオミとカナコ』(フジテレビ系列・2016年)の中国人・李朱美役を思い出した。中国食品の輸入会社を経営している李。ド派手な衣装に身を包み、片言の日本語ととてつもなく勢いのある中国語を話していた。インパクトは強烈で当時、SNSは話題騒然。
「ウチノ会社、ビジュツ品アツカウコトニ、ナリマシタヨ!」
「困ッテルトキ、助ケナイデ、何ガ親友カ?」
高畑さんは以前『ノンストップ!』(フジテレビ系列)に出演した際、日本在住の通訳・黄栄珠さんによって、中国語なまりの日本語で吹き込まれたセリフの録音を聞いていたと明かしている。理想的な中国語なまりを持った人に会うまで、何人も探し歩いたというのだから、プロ根性に頭が下がる。今回の朝ドラでも自然な老け加減が出るよう、地毛の白髪で演じているとNHKの番組で話していた。そのため、他の番組に出演をするときはウィッグを被っているそうだ。
2作品を紹介しただけでも、彼女の演技に対する全力加減と愛情が伝わってくる。そのせいだろうか。10月10日放送の第6話で、舞が「自分は何をやってもできない」「できないことは今まで母がやってくれた」と吐露する。
これに対して祥子は、「できんことは、次できるようになればよか。できんなら、できることば探せばよかとよ」──こう答えていた。
その瞬間、なぜか私の涙腺は崩壊。連日の原稿疲れなのか、ふいに亡くなった祖母を思い出したのかは不明。ついでに祖母は長崎弁を話していたわけでもない。それでも自分もこんなふうに愛されていたのだと、すぐに感情が蘇ってくる、高畑さんの愛情あふれる演技の賜物のおかげである。ああ、朝から泣いて、すっきり。おそらく、この調子で感動シーンは前触れなく訪れると思う。みなさま、涙を拭く用意をしてテレビの前へどうぞ。
【プロフィール】
小林久乃(こばやし・ひさの)/エッセイ、コラムの執筆、企画、編集、プロモーション業など。出版社勤務後に独立、現在は数多くのインターネットサイトや男性誌などでコラム連載しながら、単行本、書籍を数多く制作。著書に、30代の怒涛の婚活模様を綴った『結婚してもしなくてもうるわしきかな人生』(KKベストセラーズ)、『45センチの距離感 -つながる機能が増えた世の中の人間関係について-』(WAVE出版)がある。静岡県浜松市出身。Twitter:@hisano_k