ただし前にも述べたことだが、この教育勅語の内容を、たとえば「国民を戦争に駆り立てるものだから評価しない」などとするのは、歴史の評価としては間違っている。この時代、日本が独立を守るためには欧米列強型の「市民が兵士として戦争に参加する道」を開かねばならなかった。この時点ではそうなので、それに現代の一方的な価値観をあてはめるのは間違いである。

「男女平等」もそうだ。江戸時代以来朱子学の影響で、日本では「女は男に従うべきもの」であった。「夫唱婦随」が絶対で「三従の教え(女はまず親に従い、嫁しては夫に従い、老いては子に従え)」というのが基本道徳であったのだ。それをこの勅語は「夫婦相和」と言っている。男女平等という点では不じゅうぶんという意見があるかもしれないが、これが「突破口」であり完全な男女平等実現への第一歩になったことは間違いない。

 天皇の神格化も、国民は(天皇の下においては)すべて平等だという概念を確立するためには絶対に必要なことだった。日本はキリスト教国ではない。だから、フランス革命と同じような平等を確立するためには「平等化推進体」の「製造」が不可欠だった。日本人は誤った歴史教育のせいで宗教というものの歴史に果たす役割をまったく理解していないが、そうしたもの、ある意味できわめて不合理なものが無い限り人間は平等を達成することはできない。福澤諭吉も「天は人の上に人を作らず、人の下に人を作らず、と言うけどなあ」とボヤいているではないか。現代の日本人が空気のようにあたり前だと思っている「万人平等」という概念を常識にするのは、非常に困難な知的作業なのだ。現に、中国ではいまだに確立していないではないか。

 それができたのも教育勅語のおかげ(それだけではないが)だと言ってもいい。しかし、歴史は前に進めるべきものである。

 だから、西園寺公望は「第二教育勅語」を出そうと考えたのである。

(文中敬称略。第1363号へ続く)

※週刊ポスト2022年12月9日号

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