TVでも話題になった鈴木宗男氏の箱乗り遊説(時事通信フォト)

TVでも話題になった鈴木宗男氏の箱乗り遊説(時事通信フォト)

育ての親は金丸信

──「非友好国」とされても対話の窓口を残し、相手を国際的に孤立させない……。金丸信が1990年代に試みた北朝鮮外交の一幕を思い出します。

 金丸は国防族で、台湾びいきの反共タカ派でありながら、訪朝した途端に右派から狙われ、「北から金塊をもらった」とデマまで流れた。それでも「オレが全部泥をかぶればいい」と言って、日朝関係の打開に挑んだ。結果はさておき、今日は泥をかぶる覚悟を持った大物が見当たらなくなりました。

「政治家・鈴木宗男の生みの親は中川一郎先生ですが、育ての親は金丸信先生です。二人に共通しているのは、政治は弱い人のためにあるという考え方でしたね。

 金丸先生が北朝鮮に行ったのは、第十八富士山丸の紅粉勇船長らが向こうで逮捕されて、船長の奥さんからなんとか主人を返してくれとお願いされたからだと聞いています。金丸先生は人情家だから、よし、オレが行って解決しようって、平壌に乗り込んだわけだ。それで、金日成国家主席と一対一で交渉するんですね。

 あの時、金丸先生が発したのが『風穴(を開ける)』という言葉でした。随行していた外務省の審議官に金丸先生が、『オレは政治家だから、オレの判断でモノを言う。そこにおまえがいたら、おまえに迷惑がかかる、席を外せ』と言った。

 全批判を一人で引き受ける腹を決めて、日朝間に風穴を開けようとした。それで船長らは解放されたんです。感激しましたね。

 しかしその後、米国がえらく反発した。金丸先生は力がある、頭越しで国交回復までやりかねない。それが後の不幸な事件(による失脚)にもつながったと言われます。

 後に、私も一人でロシアと向き合ったから、国策捜査にあいました。名もなく、将来性もなければ、権力闘争に巻き込まれなかった。私も『負けてたまるか』という思いで頑張りました」

第2回につづく

【プロフィール】
鈴木宗男(すずき・むねお)/参院議員(維新・当1)。1948年北海道生まれ。拓殖大学在学中から中川一郎氏(農相)秘書。1983年に旧衆院北海道5区で初当選(通算8期)。北海道開発庁長官、官房副長官などを歴任。2002年あっせん収賄罪などで逮捕・起訴。10年実刑確定(懲役2年)で失職・収監。2019年日本維新の会に入り、参院比例区で当選を果たす。

【インタビュー】
常井健一(とこい・けんいち)/1979年茨城県生まれ。ノンフィクション作家。朝日新聞出版を経て、フリーに。数々の独占告白を手掛け、粘り強い政界取材に定評がある。著書に、大宅賞候補作の『無敗の男』(文藝春秋)など。近著『おもちゃ 河井案里との対話』(同前)が講談社・本田靖春賞ノミネート。

※週刊ポスト2022年12月23日号

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