2021年7月、鹿児島県川内市にある湖の遊歩道にて。夫役の榎木孝明と
ミャンマー人のアウン役で共演した大野一夫(57才)も、この場面にかける島田さんの強さが印象に残ったという。
「せりふについても何度も打ち合わせを行い、言い回しを変えるなど、よりよい場面にしたいという気持ちが強かった。また、何より島田さんは生きるってことに執着を持っていると強く感じました」(大野)
その熱意に押されて、横山さんは撮影に入ってからストーリーを2か所、変更したという。1つは、島田さん演じる主人公が病気になること。そして、最後に病気が治ることだ。
「島田さんは気丈で、つらいとは一切言いませんでしたが、せりふを言うたびにゼーゼーと呼吸する音が入ってしまう。それを消すのは音声処理でも難しかったので、少しでも自然に聞こえるように病気を患っている設定に変えました。それなら呼吸の荒さが逆に生かせると思ったからです。そしてラスト、私の台本では亡くなる予定でしたが、『嫌だ、死にたくない。この主人公は死なない』とおっしゃって……。自分と主人公を重ねた『どうしても生きたい』という思いが伝わってきました」(横山さん)
映画のラストで美しい笑顔を見せている島田さん。女優としての輝きは、多くの人の心に残るだろう。
【プロフィール】
横山浩之さん/映画監督。2015年映画の力で日本の魅力を国内外に発信するプロジェクト「it JAPAN イット・ジャパン」の第一作『おとめ桜』(脚本・監督)で2017年度モナコ国際映画祭の短編部門最優秀脚本賞受賞。
映画『エヴァーガーデン』
旅館経営者(榎木孝明)がコロナ禍による経営不振と病気を苦に自殺。残された妻(島田陽子さん)が懸命に生きようともがく姿を描き、人が生きることの意味を問いかける作品。島田さんは主人公のほか、人生初で最後のプロデュースも務めた。今後は、地方で順次公開予定。
取材・文/山下和恵
※女性セブン2023年1月5・12日号