競争の激しいゴールデンタイムの番組の中で、いま最もお笑いの純度が高い番組は、『有吉の壁』と言っても過言ではない。2015年から深夜帯での不定期放送が始まり、2020年にレギュラー化を果たした同番組。毎回大量の新作のネタやコントを惜しげもなく出し続けて、子どもから大人まで幅広い層の支持を得ている。総合演出を務める橋本和明氏に、ロケという手法でお笑い色の強い番組を作り上げてきた理由を訊いた(一部敬称略)。
聞き手は、『1989年のテレビっ子』『芸能界誕生』などの著書があるてれびのスキマ氏。テレビ番組の制作者にインタビューを行なうシリーズの第1回【前後編の前編】。
「ロケならばセット代がかからない」がもたらした思わぬ恩恵
『有吉の壁』(日本テレビ系)が、2020年4月から水曜19時台、ゴールデンタイムのど真ん中でレギュラー化されると聞いて誰もが驚きと同時に、多くの他のお笑い番組同様、ゴールデンの壁にぶつかり、短命に終わるか、番組のカラーが激変してしまうのではないかと危惧をした。だが、番組カラーそのままに、いまや人気は定着。日本テレビの看板番組のひとつになっただけでなく、結果的に各局でお笑い色の強い番組が立ち上がる先鞭をつけることになった。
同番組の最大の特徴であり、革新的だったのは、ロケ地をそのままセットのようにしたコント番組だということだ。総合演出の橋本和明は、当初「そんなに確信を持って、これが絶対行けるとは思っていなかった」と回想する。事実、最初のパイロット特番でも2コーナー目だった。
「『笑う犬の生活』(フジテレビ)とか大好きだったし、僕自身の出自も東大の落語研究会でコントをやっていたというのもあって、ずっとコント番組をやりたかったんです。でも、セット費って想像以上に大変なんですよ。今は5分とか10分で終わるセットに何百万もかけられない。だったら街の中でやったらお金がかからないじゃんという発想ですね」
ロケ地探しは苦労した。あらゆる施設に声をかけ、常にアンテナを張り、新しい場所ができればすぐに交渉。関東近郊の主な施設は、ほぼ訪れたという。
「プライベートで旅行に行ったときとかに、ここは『壁』で来たことがあるなって。この扉を開けたらショートカットできるとか裏の動線まで全部わかる(笑)」
番組の認知度が上がるにつれて、貸してくれる場所も増えてきた。