ライフ

伊東潤氏「史実と定説、新説まで吟味して独自の解釈を導き出していくのが歴史小説」

伊東潤氏が新作について語る

伊東潤氏が新作について語る

 伊東潤氏・著『一睡の夢』(幻冬舎)の主人公は、言わずと知れた〈家康と淀殿〉。この2人に関ヶ原後の約15年を交互に語らせ、濃密でリーダビリティ溢れる1冊に仕立ててみせた著者は、晴れて昨年、作家生活15周年を迎えた。

「版元は違いますが、前作『天下大乱』で関ヶ原を、本作で大坂の陣を描き、作家としての折り返し点にしようと。僕も今年63ですし、昨今のめざましい研究成果を反映した関ヶ原の戦いと大坂の陣の実像を、最も筆勢のある今書いておきたかったんです」(伊東潤氏、以下同)

 物語は関ヶ原の勝利から6年後の慶長11年、日比谷入江の埋め立てを無事終え、費用は諸大名に課したので、〈当家の腹は痛みません〉などと、前年、征夷大将軍の座に就いた嫡子秀忠から、家康が江戸城普請に関して報告を受ける場面で始まる。

〈わしの立場で、そこまで知る必要があるのかを考えてみよ〉と律儀に過ぎる息子に父は苛立ち、そして思う。〈わしのような立場の者が、大坂にもう一人おったな〉と。秀吉の側室にして現当主秀頼の〈お袋様〉、淀である。が、共に子孫繁栄を願い、〈天下静謐〉を夢見ながら利害が一致するはずもなく、結局は命運を分かつ彼らの、これは「継承をめぐる物語」でもあると伊東氏は言う。

 折しも本年大河ドラマは古沢良太作、松本潤主演の『どうする家康』に決定。

「僕の作品はしばしば大河ドラマと題材が被るので、便乗と思われがちなんですが、歴史小説の場合、題材に限りがあるので、バッティングなんて日常茶飯事なんです。昨年も鎌倉時代初期を描いた『修羅の都』と『夜叉の都』が『鎌倉殿の13人』と当たりましたが、作品数が多いのも、その原因ですね。でもいちいち気にしていたらきりがありません」

 伊東氏は書き手としての強みを、ストーリーテリング力と歴史解釈力に置いているが、本作では、特に後者に比重を置いたという。

「歴史小説というのは、一次史料に残る史実と歴史学の先生方が積み上げてきた定説を重視します。この二つを吟味した上で、独自の歴史解釈を物語にしていくのが歴史小説になるわけです。本作の場合も、史料と定説、さらに新説を吟味した上で、慎重に自らの解釈を導き出していきました。そうしたきめ細かい作業を怠らないからこそ、家康や淀殿をはじめとした登場人物たちが、リアリティを持って生き生きと現われてくるのではないかと思います」

 齢65を過ぎ、政権安定を焦る家康は、同じ妾腹でも兄・結城秀康ではなく秀忠を次期将軍に自ら選びながら、その従順さが歯痒くてならない。〈だがもはや乱世ではないのだ。乱世が続くのなら、秀康は徳川家の当主に最適だったろう。―徳川家が幕府を開いた今、必要なのは「守成の人」なのだ〉

 一方、大坂城の淀殿も、小谷城が落城し、〈誇りこそ人の最後の寄る辺〉と父・浅井長政や母・市から身をもって教わった日のことや、城を出た後も、母や2人の妹共々、戦乱の世に翻弄されてきた日々を折に触れて回想。今度こそ家を守り、秀頼を将軍とするにも、〈時を稼ぐことが、今は大切なのか〉と、家康と秀頼の年齢差に唯一の勝機を見出していく。

関連記事

トピックス

寄り添って歩く小室さん夫妻(2025年5月)
《ベビー服は男の子のものでは?》眞子さん、夫・小室圭さんと貫く“極秘育児”  母・佳代さんの「ラブコール」も届かず…帰国が実現しない可能性も
NEWSポストセブン
選手着用のレオタードやジャージから「スポンサーロゴ」が…(協会のSNSより)
新体操日本代表・フェアリージャパン「パワハラ問題」でレオタードから消えた「スポンサーロゴ」 スポーツ庁が求めた第三者調査を“秘密裏に実施”との関係者証言も
週刊ポスト
イギリス出身のインフルエンサーであるボニー・ブルー(本人のインスタグラムより)
“半日で1000人以上と関係を持った”美女インフルエンサー(26)がイギリスの公共放送で番組出演「口をすぼめて、吸う」過激ビジュアル
NEWSポストセブン
本格的に中国進出をめざすならば…(時事通信フォト)
《年内結婚報道》橋本環奈と中川大志の「結婚生活」に立ちはだかる“1万kmの距離” 2人の異なる“海外進出の希望先”
週刊ポスト
麻田雅文氏(左)と小泉悠氏
《『日ソ戦争』麻田雅文氏×小泉悠氏対談》ソ連の講和仲介に期待した日本人の「アメリカよりロシアのほうが話せる」という感覚
週刊ポスト
「池田温泉旅館 たち川」の部屋風呂に「温泉偽装疑惑」。左はHPより(現在は削除済み)、右は従業員提供
「水道水にカップ5杯の重曹を入れてグルグル…」岐阜県・池田温泉「高級旅館」の部屋風呂に“温泉偽装”疑惑 ヌルヌルと評判のお湯の真実は…“夜逃げ”オーナーは直撃に「誰からのリークなの? それ」
NEWSポストセブン
これまでジャズ歌手などとしても活動してきた参政党・さや氏(写真/共同通信社)
参政党・さや氏、歌手時代のトラブル証言 ジャズバーのママが「カチンときて縁を切っちゃいました」、さや氏は「そうした事実はない」…真っ向食い違う言い分
週刊ポスト
もうすぐ双子のママになる。Numero.jpより。
Photos:Mika Ninagawa
中川翔子3年にわたる不妊治療と2度の流産を経験 。 双子の男の子のママになる妊婦姿を披露して話題に
NEWSポストセブン
趣里と父親である水谷豊
《女優・趣里の現在》パートナー・三山凌輝のトラブルで「活動セーブ」も…突破口となる“初の父娘共演”映画は来年公開へ
NEWSポストセブン
岐阜の「池田温泉旅館 たち川」が突然の閉鎖、事業者が夜逃げした(左は旅館のInstagramより)
【スクープ】岐阜県の名所・池田温泉の人気旅館が突然の閉鎖 町が運営委託した事業者が“夜逃げ”していた! 町長からは228万円の督促状、従業員が告発する「オーナーの計画」 給料も未払いに
NEWSポストセブン
中村七之助の熱愛が発覚
《元人気芸妓とゴールイン》中村七之助、“結婚しない”宣言のルーツに「ケンカで肋骨にヒビ」「1日に何度もキス」全力で愛し合う両親の姿
NEWSポストセブン
大谷が購入したハワイの別荘の広告が消えた(共同通信)
【スクープ】大谷翔平「25億円ハワイ別荘」HPから本人が消えた! 今年夏完成予定の工期は大幅な遅れ…今年1月には「真美子さん写真流出騒動」も
NEWSポストセブン