ジャズは米兵の心のよりどころだった(写真は東山盛さん提供)
彼女を『オバー』と呼ぶ人はあまりいない
齋藤さんの友人が言う。
「87才じゃなく“20才の女の子が4人いる”と思っているので、実は彼女を『オバー』と呼ぶ人はあまりいないんです。何しろスタミナも声量も桁違いですから」
年齢を感じさせないパワフルな歌声の原動力はどこにあるのか。
「ストレスなく好きなことをやること。それから、何でも食べて、よく寝ること。石垣島に『老人大学』という講座があって、前に音楽のことを話してほしいと言われて行ったことがあるんです。そこでも同じように、目標を持って好きなことに打ち込むことがいちばん健康にもいいって話をしました。
年を取ったからと言って、家に閉じこもっていてはダメ。朝のいい空気はタダなんだから、まずは外に出て、腹式呼吸をした方がいいって勧めたんです。毎朝、10回でもやれば絶対、朝ご飯がおいしくなりますよ」(齋藤さん・以下同)
いままで一度も大きな病気をしたことはなく、音楽を辞めていた時期より、歌を再開してからの方がずっと元気に過ごしているという。講座の最後に、齋藤さんは自分で考えた替え歌を歌った。
〈私の歳など忘れてしまったの 若者と楽しく過ごすのがいいわ ケセラセラ なるようになる あとのことなどわからない ケセラセラ〉
「言いたいことだけ言って終わったんだけど、来年もまた来てくださいって。いまから何を歌おうか考えているところなんです(笑い)」
今年2月、齋藤さんは初めて沖縄を離れて東京でライブを行う。有楽町に新しくできた劇場「I’M A SHOW(アイマショウ)」で、世界的ピアニストのデヴィッド・マシューズ氏と共にジャズのスタンダードナンバーを披露する。
「また好きな歌が歌えるって、幸せなことですよね。もういつ逝っちゃったっていいわって、本当にそういう気持ちなの。それでも、声が出る限りは歌い続けたい。それがいまの私の目標ですね」
ジャズに人生のすべてをささげた石垣島のオバーは、そう言って笑顔を咲かせた。
取材・文/鈴木竜太
(了。第1回から読む)
※女性セブン2023年2月2日号