「まだブームは来ていない」
小川氏は常にファンを飽きさせないことに主眼を置く。想像を超える現実が目の前に現われた時こそファンがもっとも興奮する心理を先読みして新たな戦略を仕込む。その見えないファンとの交流を小川氏は楽しんでいるようにも見える。
近年、新日本プロレス・スターダムの合同興行で女子のタイトルマッチがメインイベントに据えられ、米WWEでも女子選手がメインを飾ることも多くなった。女子プロレスの地位は大きく向上したかのように見えるが小川氏は違う見解を持つ。
「『男子の中に女子がようやく入れた』という言われ方をしますが、日本はもう50年も60年も前から女子だけでプロレス興行をやっているんです。その歴史があるので、男子の中に入ることが最終到達点ではありません」
かつて日本では幾度も女子プロレスが世間を賑わせてきた。「ビューティペア」や「クラッシュギャルズ」を手がけた小川氏は女子プロレスの生き証人でもある。その小川氏が見るスターダムの人気とプロレス界の未来とは。
「まだブームは来ていないと思うようにしています。スーパースターが現われてブームが起きるのも良いですけど、ブームは大体2年で終わりますからね。そんなケースはこれまでたくさん見てきました。人気というのはブームにさせずじわじわじわじわ右肩上がりで上がっていく位で良い。地力がついて盤石の人気の礎を築けたときに、『女子プロレスはスターダムを見ればわかる』、と日本のみならず世界の女子プロレスをリードする存在に必ずなってくれていると信じています」
スターダムは今年4月に横浜アリーナ大会の単独開催を発表した。女子プロレスでは20年ぶりとなる発表にファンは大いに驚き喜んだ。ロッシー小川氏の次なる仕掛けは何だろうか。そこにはファンが驚くテーマとストーリーが待っているに違いない。
【プロフィール】ロッシー小川(ろっしー・おがわ)/1978年全日本女子プロレスに入社。「ビューティペア」や「クラッシュギャルズ」のマネージャーを歴任し”全女の仕掛け人”と称される。1980年代から1990年代の全日本女子の黄金時代を牽引した。1997年には新団体アルシオンを旗揚げし社長に就任。団体解散後も精力的にプロデュース業を行ない、数々の興行を成功へと導いた。2010年にはスターダム代表取締役として同団体を起ち上げる。2019年にスターダムをブシロード子会社に事業譲渡し現在はエグゼクティブプロデューサーとして団体に関わる。
取材・文/青野有城