被害者の中には治療前より歯列が悪くなった人も(提供写真)
その後、BさんもAさんと同様、Xと連絡が取れなくなり、治療は中断。あごの痛みやかみ合わせの不調は治っていない。しかしそれでも、Bさんはいまもマウスピースをつけ続けている。
「マウスピース矯正は、アタッチメントと呼ばれる突起物を歯に装着しているんです。さらに私の場合は、歯列を整えるためのスペースを確保するために歯間を削っている。マウスピースをしていないとアタッチメントが舌や頬の内側に当たって口内が荒れるし、見た目も悪いんです。一刻も早く、ほかの病院で治療を引き継いでもらいたいのですが、Xで組んだローンが80万円以上残っている。そのうえに新たな病院で治療となると、二重ローンになってしまうので経済的に無理。Xには早く治療費の返還に応じてほしいです」(Bさん)
雪下歯科医院理事長で歯科医の雪下明人さんは、Xから見捨てられた患者を診察した際、治療の状況に疑念を持ったという。
「その患者さんは、埋伏歯(あごの骨や歯肉の中に埋まって出ていない歯)が歯の移動に干渉して歯列が乱れ、治療前よりも前歯が前に出てしまっている状態でした。埋伏歯はレントゲンで確認できるので、矯正開始前に抜くか引っ張り上げるかをするのが定石。担当医が経験不足だったか、診察がずさんだったかのどちらかでしょう」
被害者の多くが、治療が放置されたままになっていることについても危惧する。
「治療が長期間にわたって中断されると、歯の移動が進まないばかりか後退してしまう可能性もある。オープンバイト(かみ合わせが合っていない状態)になっている場合、口呼吸となって歯科疾患以外の不調が出る可能性があるうえ、発音にも影響が出ます」(雪下さん)
加藤さんは、手口のタチの悪さについてこう指摘する。
「Xは、多数の営業担当者にSNSや対面で勧誘活動をさせ、少なくとも数万円の成功報酬を支払っていた。患者に対しては魅力的な話ばかりを並べ、契約を急がせるというのが共通する手口。ですが、患者のほとんどとモニター契約を結んでいたのでは利益が上がるわけがない。治療費の一括支払いをさせる新規の患者を獲得し続けなければ破綻する、自転車操業そのもの。
初めから“問題が大きくなる前に稼げるだけ稼いで、逃げる”という計画のもとに行われていた詐欺的商法にほかなりません。モニター報酬の支払い分や人件費などを差し引いても10億円以上は手元に残っていると思われます。人の悩みにつけ込んでいる点も悪質極まりないです」
取材・文/奥窪優木
※女性セブン2023年3月2・9日号
目立たないとされる「マウスピース矯正」(写真はイメージ。写真/PIXTA)