飲食店にサービスで設置されている調味料や箸、つまようじなどを利用した迷惑動画が目立つ(イメージ)
いまほど老若男女がSNSを操るようになる前は、炎上を次々に作り上げるインフルエンサーやまとめサイト運営者に対して、他者のネタやニュースを盗んだり、他人の炎上(不幸)をカネにしている下劣なユーザーだと蔑まれる傾向もあった。だが現在は、かつての「バカッター」ブーム時に比べると、わざと炎上を起こすユーザーを非難する声は小さくなり、他人の炎上に便乗するユーザーが増えたようにも感じられる。そのため、同じ系列の動画で炎上が再生産され長期化、拡大化する傾向にある。
こんなのニュースにするなんて負のスパイラル
一方、ネット上では巨悪のようにも語られるオールドメディアと呼ばれるテレビや新聞のニュースは、SNSでタイムラインに流れてくるインフルエンサーによる拡散情報と比べると、情報の確度は今なお高い水準にある。ネットにこそ真実があると叫ぶユーザーもいるが、ネット歴が長いユーザーであれば、彼らが言う”真実”が、実はネット上に存在しないことも知っているだろう。そのため、ネットで話題が集まってもテレビや新聞のニュースは一歩引き、動画炎上についても、被写体や撮影者への私刑に陥りがちなネットの風潮に釘を刺す存在だった。だが、そんなオールドメディアも、動画炎上をめぐる危うい流れに抗えなくなりつつあると民放キー局の情報番組ディレクターがこぼす。
「当初は、こんなくだらないネットの騒動をニュースにするな、というのが大方の意見で見送りました。しかし、報じた他社は数字(視聴率)を取ってるじゃないかとなる。さらに、ネットニュースでも何十万何百万と再生されるものだから、数字の取れる(炎上)ネタを落とせば”何故やらないのか”と上から詰められる。ネットニュースに載せれば、それだけ閲覧者数も増え、収益に繋がるという仕組みに、テレビ局も乗っかっている格好ですね。結局、作り手はこんなバカなニュース取りあげたくないよと言いながら報じる、見る側もこんなのニュースにするなよと言いながら見る、負のスパイラルですよ」
規模は違うが、テレビ番組も「見てくれる人」が集まらないと成立しないために、よいことではないと思いながらも、やはり取りあげざるを得ないのだという。結局、テレビだろうがネットだろうが、人の耳目を集めなければメディアとしては成立しない。ただ、そのためだけに今般のような炎上騒動に乗っかっていれば、メディアとしての権威は地に落ちる。「テレビがネットに寄せすぎている」といったテレビ業界人の声も聞こえてくるが、この傾向は、年々強まっているようにさえ思える。
今回の動画炎上で見逃せないのは、炎上に巻き込まれた側の被害だけではない。動画の被写体や撮影者、最初にネットに公開した者など、関わった人たちが受けるダメージが、「社会的制裁」として許容できる程度を超える厳しいものになっていることだ。以前、筆者が取材した炎上動画の撮影者であった会社員の男性(30代)は、ネット上にばらまかれた自身の名前や写真、動画などを消去するため、総額50万円近い金額を弁護士や専門家に支払ったと振り返った。その結果、彼はある程度、落ち着いた日常を取り戻すことができたが、今はそれも難しいのではないかと感じている。
「昔より拡散される範囲が多く、消しても追いつかないし拡散のスピードも早く、お金がいくらあっても足りないでしょう。謝罪しても言い訳しても叩かれるから、とにかく黙っておくしかない。寿司店で炎上した高校生は学校を退学したそうですが、地元では名前も知れ渡り、就職などにも影響が出るはず。私だって、今の勤務先には全てを正直に話しているんですが、これほどまでの炎上ではありませんでした」(炎上経験のある会社員男性)
かつてはスルーするか当事者との話し合いで済ませることが多かった企業側も、今回の動画炎上では警察に相談したり告訴するなどしている。そういった対応の変化を見ると、今後は単なる「炎上」ではなく「事件」として扱われ、賠償金だけでなく刑事罰がくだされるケースも出てくるかもしれない。それら一連の償いを終えて当事者どうしが解決してもデジタルタトゥーが残ることで、罪の重さと比例しない、大きな社会的制裁を長く受け続けなければならなくなっていることだけは事実のようだ。