ロシアのプーチン大統領(写真=SPUTNIK/時事)
安倍氏はその警告を胸に刻んでいた。だが、ロシアとの北方領土返還交渉は困難を極め、国境を画定できないまま退陣した。安倍氏は戦争によらない領土返還の難しさ、領土交渉から得た教訓をこう語っている。
〈2004年の中露の国境画定も、1969年に国境付近の川で軍事衝突が起きて、両国が解決しようとなったわけです。日本がテーブルの上で、いくら法の正当性を述べたところで、ロシアにとっては痛くも痒くもないとも言えます。
そういう観点からすれば、尖閣諸島も絶対に奪われてはならないのです。いったん占領されたら、いくら交渉したって返還は難しくなりますから〉
外交・安全保障が専門の評論家・潮匡人氏は安倍外交を貫く理念は「徹底したリアリズム」だったと指摘する。
「安倍氏はプーチン大統領と個人的な親交を結んだといわれ、今回のロシアがウクライナに侵攻した当初には、『安倍さんがプーチンを説得すべき』という感情的な論評までありました。しかし、首脳外交は単なる仲良し交渉ではなく、互いに国益を背負って利害をぶつけ合う。回顧録では、安倍さんが善悪二元論ではなく、現実政治のリアリズムを踏まえてプーチンに対峙してきたことがよくわかる。
だから米国が反対しても領土交渉という国益のためにロシアを訪問したし、ロシアを警戒しながらも西側諸国の利益になるのであれば是々非々で付き合おうとしてきた。国際政治のリアリズムを強く意識して外交を行なった政治家だった」
※週刊ポスト2023年3月10・17日号