高校の時から変わらないスリークオーターの投球フォームだ(撮影・比田勝大直)
2年後のドラフト会議では……
笹倉と同じように強豪私立の野球部を自主退学せざるを得なくなった球児が、通信制高校、独立リーグを経てプロとなったケースはあるものの、一度、高校野球をドロップアウトした選手にとってプロはより狭き門となる。自己都合で退部した場合は日本高等学校野球連盟の規定によって1年間、公式戦に出場することができないだけでなく、真偽はともかくとして問題児のレッテルが貼られてしまえば、恵まれた環境で再び野球をやることも難しいだろう。ドラフトで指名されることがあっても、支配下ではなく、育成契約でまずは様子を見ようという判断が妥当とされるかもしれない。
それでも、笹倉はプロの舞台に立つことを夢見ている。この春から改めて高校生となり、クラブチームの一員となった笹倉が、ドラフトの指名を受けることができるのは2024年の秋だ。中学時代のライバルであった森木大智は、高知高校から2022年のドラフトで阪神に1位入団した。同級生の伊藤は早稲田大学に進学し、笹倉と同じ2年後のドラフトを視野に入れていることだろう。
「伊藤や森木に追いつきたいというのは、心の中でちょっとはあるかもしれません。『プロになった』という報せをふたりにしたいというのは、僕の夢ですね。子供の頃から、プロに入るだけじゃなく、長くプロで活躍したいという目標を持っていた。10年でも、20年でも、プロの第一線で投げられるピッチャーになりたい。もしあのまま高校野球を続け、たとえプロに指名されることがあったとしても、自分のレベルでは通用しなかったと思います。この遠回りが、10年後、20年後に必要な回り道だったと思えるようにしたい」
別府から遠く離れた甲子園では、笹倉の2歳下の後輩たちが“夏春”連覇を目指して第95回センバツ高校野球に出場。3月29日の準々決勝では延長タイブレークの末に報徳学園(兵庫)にサヨナラ負けを喫したものの、9回表に2点差を追いつく粘りに、観客からは惜しみない拍手が送られた。
あのグレーのユニフォームを着た球児が聖地・甲子園で躍動すればするほど、同所で人一倍の輝きを放った笹倉世凪の復活を心待ちにしている私がいる。早くから注目を浴び、世代の誰よりも早く聖地で躍動したからついつい見過ごしてしまいがちだが、笹倉はまだ19歳なのだ。可能性なんて無限大だろう。
【了。前編から読む】