坂本龍一さんとパートナーとの息子・空音央氏は映画監督だ(同氏のHPより)
その後、1983年に坂本さんは人生を変える作品と出会うことになる。大島渚監督(享年80)による映画『戦場のメリークリスマス』に出演し、役者としてビートたけしやデヴィッド・ボウイ(享年69)らと共演しただけでなく、音楽も担当したのだ。YMOのイメージとはまったく異なるさみしげなピアノの音色は、坂本さんを日本人として初めて英国アカデミー賞作曲賞に誘った。
「坂本さんは、こうしたチャンスをくれた大島監督に対し、大恩人だと繰り返し感謝していました。そして、その大島監督とカンヌに行ったときに紹介されたのが、ベルナルド・ベルトルッチ監督(享年77)です」(映画関係者)
カンヌでベルトルッチ監督と接点ができた坂本さんは、その縁で1987年公開の大作『ラストエンペラー』でも音楽を担当。同年のアカデミー賞で、日本人として初めてアカデミー作曲賞を受賞した。
「当初のオファーは、役者のみでした。ところがすべての撮影が終わって半年後に、突然プロデューサーから“音楽を1週間で仕上げてほしい”と依頼されたそうです。それに対する坂本さんの返事は“2週間もらえるなら”というものでした。『戦メリ』のメロディーを30秒で思いついたという坂本さんですが、このときはほぼ不眠不休で仕上げたそうです」(前出・映画関係者)
以来、坂本さんの才能は世界中の映画人の知るところとなり、著名人からのオファーが殺到。『ゴッドファーザー』で世界的俳優となったマーロン・ブランド(享年80)からは新作の脚本が送られてきたこともあったという。ただ、坂本さんをスターダムに押し上げたこの偉業が後年、坂本さんを苦しめることもあった。『婦人画報』(2022年3月号)ではその心境をこう表現している。
《まだもう少し挑戦しないと、「『戦メリ』が一番よかったで終わりかよ」っていう、自分の中でそういう気持ちがあるんですよ。『戦メリ』一曲じゃまずいだろうって》
一方で同年6月発売の文芸誌『新潮』では《坂本龍一=『戦メリ』のフレームを打ち破ることを終生の目標にしたくはない。そのゴールに向かって、残された時間を使うのはアホらしい》とも綴っている。天才ならではの葛藤と、偉大すぎる業績に縛られる苦悩がうかがえる。
※女性セブン2023年4月20日号