ライフ

本城雅人氏、永田町エンタメ小説『キングメーカー』を語る「哲学も信条もない記者に存在意義はない」

本城雅人氏が新作について語る

本城雅人氏が新作について語る

 一介の新聞記者が政局や総裁選すら牛耳り、しかもその事実を国民は一切知らされず、蚊帳の外状態──。そんないかにも昭和的な光景を、〈20年の新聞記者生活の悔悟と葛藤を込めて〉と帯に寄せる本城雅人氏は、新作『キングメーカー』であえて露悪的に描く。

 主人公は〈日西新聞〉に中途入社し、政治部に配属された、〈国枝裕子〉32歳。平成2年、〈海老沢内閣〉発足の3年後に生まれた彼女は、海老沢一徳元総理の半生を振り返る大型連載を任され、上席編集委員の〈木澤行成〉の指導の下、関係者を取材に回る日々だ。

 現幹事長の〈阿久津諭〉ら民自党幹部からキザさんと慕われる木澤は、その人脈を買われ、通信社からヘッドハンティングされた。が、彼を引っ張ったはずの役員〈菅波〉は言う。

〈経済でもスポーツでも、黒幕は国民に嫌悪され、週刊誌に晒され、ネットで炎上する。それが現代社会だよ。一人の新聞記者が歴代の総理大臣を何人も決めてきたなんて事実が世に広まったら、我々は報道機関として存在できなくなる〉

 そう。実は裕子の使命は木澤の過去を暴き、彼を追放することにあったのだ。

「木澤みたいな記者ですか。僕は好きですよ。彼のように裏で動ける記者に憧れて、新聞社に入った世代なので。僕はスポーツでしたが、野球記者と政治記者はわりと似た部分があると思う。FAとかトレードに関して選手と球団との間に入って動く人も結構多い。そんなのズルいし古いし、コンプライアンス的にアウトだろうと、若い世代から批判されるのも承知の上です」

 着想は、「こういう記者が今もいたらどうなるか?」というイフにあったという。

「まずは元政治部の方々に話を聞き、そのエピソードの一部を再構築しながら、木澤を造形していきました。かつては小選挙区制一つとっても政治家や新聞社や現場の記者にも各々意見があった。それを記事に書くだけでなく、いかにこの国をいい国にするかということを、要は保守もリベラルも両方やっていたわけです。

 それこそ中曽根元首相と渡邉恒雄さんの間柄とか、先日亡くなられた元毎日の西山太吉さんも相当凄い方だったそう。実は佐高信さんに訊いてみたことがあるんですよ。記者が裏で動くのはいいことなのか悪いことなのか、その是非を分けるのは何なのかって。そしたら佐高さんは一言、『もらってるか、もらってないかだな』って。

 僕はこの言葉を、お金だけじゃなく彼らの意のままに動くのは『もらってる』。でも自分の信念から政治家と組むのは『もらってない』。そう解釈したんです。そういう気骨のある記者が昔はいたんだ、仮に渡邉恒雄氏が現役の記者だったら小泉内閣も安倍内閣も誕生しただろうかとか、色々と想像を膨らませてみたわけです」

 舞台は裕子が木澤と行動を共にする現代と、党内で〈八幡知行、海老沢一徳、山岡繁〉の三大勢力が争い、前総理による〈坂井戸裁定〉で海老沢が総理の座に就いた昭和終盤?平成初頭の政局とが交互に描かれてゆく。実はこの坂井戸裁定にも木澤は深く関与し、議員の事故を揉み消し、賭け麻雀やゴルフに付き合うなど、その人脈は兜町の怪しげな情報誌代表〈今泉〉を通じ、裏社会にまで及んだ。

関連キーワード

関連記事

トピックス

解散を発表したTOKIO(HPより)
「城島さん、松岡さんと協力関係は続けていきたいと思います」福島県庁「TOKIO課」担当者が明かした“現状”と届いたエール
NEWSポストセブン
山本アナは2016年にTBSに入局。現在は『報道特集』のメインキャスターを務める(TBSホームページより)
【「報道特集」での発言を直撃取材】TBS山本恵里伽アナが見せた“異変” 記者の間では「神対応の人」と話題
NEWSポストセブン
蝦夷富士という名前もある羊蹄山(イメージ)
《ブローカーが証言》中国人らが日本の不動産取得でもくろむ乱暴な開発計画 「日本の役人は言うだけで実力行使はしないと聞いている」
NEWSポストセブン
寄り添って歩く小室さん夫妻(2025年5月)
《ベビー服は男の子のものでは?》眞子さん、夫・小室圭さんと貫く“極秘育児”  母・佳代さんの「ラブコール」も届かず…帰国が実現しない可能性も
NEWSポストセブン
吉沢亮演じる喜久雄と横浜流星演じる俊介が剣幕な表情で向かい合うシーンも…(インスタグラムより)
“憑依型俳優”吉沢亮主演の映画『国宝』が大ヒット、噂される新たな「オファー」とは《乗り越えた泥酔事件》
NEWSポストセブン
イギリス出身のインフルエンサーであるボニー・ブルー(本人のインスタグラムより)
“半日で1000人以上と関係を持った”美女インフルエンサー(26)がイギリスの公共放送で番組出演「口をすぼめて、吸う」過激ビジュアル
NEWSポストセブン
映画『国宝』で梨園の妻を演じた寺島しのぶ(52)
《無言の再投稿》寺島しのぶ、SNSで2回シェアした「画像」に込められた歌舞伎役者である息子・尾上眞秀への“覚悟”
NEWSポストセブン
元横綱・白鵬の宮城野親方に相撲協会はどう動くか(八角理事長/時事通信フォト)
八角理事長体制の相撲協会に「70歳定年制」導入の動き 年寄名跡は「105」しかないため人件費増にはならない特殊事情 一方で現役力士が協会に残ることが困難になる懸念も
NEWSポストセブン
「池田温泉旅館 たち川」の部屋風呂に「温泉偽装疑惑」。左はHPより(現在は削除済み)、右は従業員提供
「水道水にカップ5杯の重曹を入れてグルグル…」岐阜県・池田温泉「高級旅館」の部屋風呂に“温泉偽装”疑惑 ヌルヌルと評判のお湯の真実は…“夜逃げ”オーナーは直撃に「誰からのリークなの? それ」
NEWSポストセブン
これまでジャズ歌手などとしても活動してきた参政党・さや氏(写真/共同通信社)
参政党・さや氏、歌手時代のトラブル証言 ジャズバーのママが「カチンときて縁を切っちゃいました」、さや氏は「そうした事実はない」…真っ向食い違う言い分
週刊ポスト
もうすぐ双子のママになる。Numero.jpより。
Photos:Mika Ninagawa
中川翔子3年にわたる不妊治療と2度の流産を経験 。 双子の男の子のママになる妊婦姿を披露して話題に
NEWSポストセブン
趣里と父親である水谷豊
《女優・趣里の現在》パートナー・三山凌輝のトラブルで「活動セーブ」も…突破口となる“初の父娘共演”映画は来年公開へ
NEWSポストセブン