影響力がないから傍観者に終始する

「僕も若い人の不公平感や、それが古き悪しき文化だってことは重々わかるんです。一方で大臣の失言や不始末が相次ぎ、いわゆる身体検査が出来ていない一因も、木澤的存在がいなくなったことにあるんじゃないかと。

 その遠因はメディアの発信力の低下にあって、新聞がたくさんの部数を持ち記者に信念があった時代には、その影響力が政治との健全な関係の重石になり得た。でも今は影響力がないから、単なる傍観者に終始し、記事自体も有名人や識者の発言を切り張りした〈パッチワーク〉になっている。自分の言葉では誰も読んでくれないと、誰より記者が思いこんでいるんです」

 そうなる節目がどこかにあったはずだというのが、本城氏の「悔悟」の正体だ。

「僕も2009年まで記者でしたし、新聞やメディアが失策に転じた分岐点に、もっと何かできたんじゃないかと。僕自身、超保守のはずの渡邉氏が戦争経験者として靖国参拝に反対し、社説で分祀を度々訴えていたのを知って、改めて感心したんですよ。でも今は右の人が左寄りなことを言うだけで『裏切り者』と叩かれたり、社会や国民生活そのものが窮屈になりつつあるので」

 二段構えの任務にあたる裕子自身、木澤の人心掌握術には畏怖すら覚えた。

「政治に強い人というのは〈裏切り〉に煩いんです。もちろん恐怖の裏返しでもあるんだろうけど、たぶん小さな約束を守れない人に大きな約束が果たせるはずがないという確信があって、互いの秘密を握り合う強固な関係性が結ばれていく」

 そして物語は後半、驚愕の展開を迎え、裕子が御年69の〈永田町の蜃気楼〉にどう引導を渡すかも見物だ。

「元々マスコミというのは清濁ギリギリの線上を歩き、そこに存在意義があった。でも今はまずクリーンじゃなきゃダメで、今後はますますそうなるでしょうけど、そもそも哲学も信条もない記者に存在意義なんてないわけです。だから濁の側に落ちた瞬間、一発退場になるだけで、一番肝心な信念や覚悟を問われているのは、裕子も同じなんです」

 それは働く全ての人間に通じ、時代は変わろうとも変わり様のない仕事にかける魂のようなものを、著者もまた尊ぶ1人なのだろう。

【プロフィール】
本城雅人(ほんじょう・まさと)/1965年神奈川県生まれ。明治学院大学卒業後、産経新聞社入社。サンケイスポーツ記者として野球、競馬、MLB等を手がけ、2009年に第16回松本清張賞候補作『ノーバディノウズ』で作家デビュー。翌年同作で第1回サムライジャパン野球文学賞、2017年『ミッドナイト・ジャーナル』で第38回吉川英治文学新人賞。また2018年には『傍流の記者』が直木賞候補に。その他『トリダシ』『時代』『崩壊の森』『あかり野牧場』等著書多数。170cm、60kg、B型。

構成/橋本紀子 撮影/国府田利光

※週刊ポスト2023年4月21日号

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