冊子の「交通事故被害者ノート」は、ナスバ(独立行政法人 自動車事故対策機構)主管支所及び都道府県の犯罪被害者向けの総合的対応窓口にて配布している。電子データは、国土交通省のHPからダウンロードできる。
こんな小さな事故でも、保険会社とのやりとりも戸惑うし、痛みを抱える中、どこに相談すればよいのかあてもない。これが大事故だったら、どれほど心細いだろうかと想像する。事故はいつ、誰に起こるかわからないと身を以て知った。
そんな不測の事態に備えて知っておきたいのが「交通事故被害者ノート」だ。事故の被害者や遺族のために国土交通省が昨年12月に作成したこのノート。実はこの事故の数日前、たまたま仕事で取材していた。
自宅で休みながら、取材でもらったばかりの「交通事故被害者ノート」を改めて開いてみた。「事故の経緯について」「さまざまな支援について」「被害者と家族について」「自賠責保険(共済)の制度について」「警察、検察庁、裁判について」「支援者や窓口の連絡先について」「利用できる制度の窓口について」の項目からなる。
「交通事故被害者ノート」より。
交通事故に遭ってしまい、何をどうすればよいかわからないときの手引きに。また万が一のときの備えにもなる。
私は不幸中の幸いで、この程度のケガだけで、加害者側との交渉も進んではいる。それでもこのノートをめくっていくと慰めになった。もっと大きな事故だったら、どれほど助けになるだろうと実感した。
斉藤鉄夫国土交通大臣と面会し、「交通事故被害者ノート」作成のお礼とさらなる普及について伝えた小沢さん、松永さんら。
もともとは「一般社団法人 関東交通犯罪遺族の会(あいの会)」代表理事の小沢樹里さんが考案したものだった。2月24日には、小沢さんと同会の副代表理事を務める池袋暴走死傷事故遺族の松永拓也さんらが、ノート作成のお礼とさらなる普及について、斉藤鉄夫国土交通大臣と面会した。
4月19日、池袋暴走死傷事故から4年がたつ。この事故によって、妻・真菜さん(当時31才)、長女・莉子さん(当時3才)を失ってしまった松永さんは、二人の命を無駄にしないためにも、このように苦しむ被害者も遺族も加害者もいなくなるように、と自身のつらい経験を伝え、交通事故を少しでもなくすために活動し続けている。
「このノートにどれほど救われたかわかりません。出あえていなければ、私は間違いなくもっと悩んでいた。国が交通事故に特化した被害者ノートを作ってくださったことにより、より多くの方たちに届けられるようになりました。
交通事故はないほうがもちろんいいけれど、不幸にも起きてしまった場合は、多くの被害者に届いて欲しい」
と松永さん。
あいの会の代表顧問弁護士・髙橋正人さんは、
「弁護士としていろいろな裁判に関わってきたが、保険会社が被害者を傷つける。刑事裁判で(加害者)本人が言ったのと違うことを代理人弁護士が主張してくることもある。その弁護士を派遣しているのは保険会社なので、ぜひ保険会社の方にも読んで欲しい」
と訴えた。
実際に被害に遭ってしまったら、何をどうしたらいいのかわからず、不安になるし冷静ではいられない人が大半だろう。この一冊には「ひとりじゃないよ」というメッセージをこめていると小沢さんは言う。自分自身の経験を経て、まさにそれを実感した。
4月19日を前に、改めて交通安全や交通事故について考える機会をもつ。天国の真菜さん、莉子ちゃんにも、誹謗中傷とも闘いながら活動する松永さんの姿がきっと届いているはずだ。
取材・文/和久井香菜子