ライフ

文豪・幸田露伴の次女・幸田文が描いた「自らも感染したジフテリアの悲劇」

ジフテリアについて岡田晴恵氏が解説(イラスト/斉藤ヨーコ)

ジフテリアについて岡田晴恵氏が解説(イラスト/斉藤ヨーコ)

 人間は様々な感染症とともに生きていかなければならない。だからこそ、ウイルスや菌についてもっと知っておきたい──。白鴎大学教授の岡田晴恵氏による週刊ポスト連載『感染るんです』より、ジフテリアについてお届けする。

 * * *
 文豪・幸田露伴氏の次女である幸田文さんの文章は、細やかな描写がしっとりと気持ちに染み込むようで私は好きです。明治の東京府南葛飾郡寺島村(現在の東京都墨田区東向島)生まれの彼女の作品には、結核などの感染症が多く登場しますが、先日は短編で『ジフテリア』を読みました。

 最近は耳にしなくなったジフテリアですが、「毒素をつくるジフテリア菌」の感染によって起こる病気で、飛沫感染でヒトからヒトへうつります。

 呼吸器ジフテリアと皮膚ジフテリアとがあり、呼吸器ジフテリアでは発熱から喉の痛み、声が嗄れるなどの症状から2~3日の間にジフテリア菌がつくった毒素によって喉の細胞が壊され、厚い灰白色の偽膜が現われます。この偽膜におおわれて喉の気道が塞がれると、息ができなくなってしまいます。この毒素が血液中に入ると心臓や腎臓、神経組織に飛び火し、心筋炎や神経炎などの合併症を起こしてしまうこともあります。

 子供であった文さんは、隣家に住む一つか二つ年下の女の子がジフテリアに罹って「熱も高いし手遅れ気味」となって、家族に感染させないために1人病室で寝込んでいると知って、淋しかろうとこっそり見舞いに行き「病人の口に氷砂糖を入れてやったり」、添い寝をしたりしたのでした。そして、自分も感染して「熱に苦しんではじめて、ジフテリアと伝染とがこんなものだとわかって恐れた」のです。そんな文さんがやっと癒えた時、この隣の女の子がもうこの世にいない人となっていたことを知るのでした。

 日本では1999年の患者報告が最後となっていますが、1945年には8万人もの患者が発生し、約1割が亡くなっていたという深刻な伝染病でした。第二次世界大戦下のヨーロッパでは100万人の患者が発生し、5万人以上が犠牲になっています。

関連キーワード

関連記事

トピックス

炊き出しボランティアのほとんどは、真面目な運営なのだが……(写真提供/イメージマート)
「昔はやんちゃだった」グループによる炊き出しボランティアに紛れ込む”不届きな輩たち” 一部で強引な資金調達を行う者や貧困ビジネスに誘うリクルーターも
NEWSポストセブン
ゆっくりとベビーカーを押す小室さん(2025年5月)
小室眞子さん“暴露や私生活の切り売りをビジネスにしない”質素な生活に米メディアが注目 親の威光に頼らず自分の道を進む姿が称賛される
女性セブン
組織改革を進める六代目山口組で最高幹部が急逝した(司忍組長。時事通信フォト)
【六代目山口組最高幹部が急逝】司忍組長がサングラスを外し厳しい表情で…暴排条例下で開かれた「厳戒態勢葬儀の全容」
NEWSポストセブン
藤浪晋太郎(左)に目をつけたのはDeNAの南場智子球団オーナー(時事通信フォト)
《藤浪晋太郎の“復活計画”が進行中》獲得決めたDeNAの南場智子球団オーナーの“勝算” DeNAのトレーニング施設『DOCK』で「科学的に再生させる方針」
週刊ポスト
手を繋いでレッドカーペットを歩いた大谷と真美子さん(時事通信)
《「ダサい」と言われた過去も》大谷翔平がレッドカーペットでイジられた“ファッションセンスの向上”「真美子さんが君をアップグレードしてくれたんだね」
NEWSポストセブン
「漫才&コント 二刀流No.1決定戦」と題したお笑い賞レース『ダブルインパクト』(番組公式HPより)
夏のお笑い賞レースがついに開催!漫才・コントの二刀流『ダブルインパクト』への期待と不安、“漫才とコントの境界線問題”は?
NEWSポストセブン
パリの歴史ある森で衝撃的な光景に遭遇した__
《パリ「ブローニュの森」の非合法売買春の実態》「この森には危険がたくさんある」南米出身のエレナ(仮名)が明かす安すぎる値段「オーラルは20ユーロ(約3400円)」
NEWSポストセブン
韓国・李在明大統領の黒い交際疑惑(時事通信フォト)
「市長の執務室で机に土足の足を乗せてふんぞり返る男性と…」韓国・李在明大統領“マフィアと交際”疑惑のツーショットが拡散 蜜月を示す複数の情報も
週刊ポスト
中核派の“ジャンヌ・ダルク”とも言われるニノミヤさん(仮称)の壮絶な半生を取材した
高校時代にレイプ被害で自主退学に追い込まれ…過去の交際男性から「顔は好きじゃない」中核派“謎の美女”が明かす人生の転換点
NEWSポストセブン
白石隆浩死刑囚
《死刑執行》座間9人殺害の白石死刑囚が語っていた「殺害せずに解放した女性」のこと 判断基準にしていたのは「金を得るための恐怖のフローチャート」
NEWSポストセブン
ゆっくりとベビーカーを押す小室さん(2025年5月)
《小室圭さんの赤ちゃん片手抱っこが話題》眞子さんとの第1子は“生後3か月未満”か 生育環境で身についたイクメンの極意「できるほうがやればいい」
NEWSポストセブン
中核派の“ジャンヌ・ダルク”とも言われるニノミヤさん(仮称)の壮絶な半生を取材した
【独占インタビュー】お嬢様学校出身、同性愛、整形400万円…過激デモに出没する中核派“謎の美女”ニノミヤさん(21)が明かす半生「若い女性を虐げる社会を変えるには政治しかない」
NEWSポストセブン