『となりのトトロ』(1988年)ではサツキとメイの母親役を演じた島本さん
──近年の宮崎監督は、本職の声優ではない俳優さんを中心に起用することが増えました。
声優は、良くも悪くも声だけで感情を表現しすぎちゃうところがあるのかなと感じます。あまりナチュラルでない説明的な芝居になっちゃう。でも「普段ドラマや映画などで活動している役者だと、声を聞いても本人の顔が頭に浮かんでしまう」と感じる人もいるでしょうし、考え方はいろいろですけどね。
考えてみれば、クラリスのときの私はまさに「本職の声優ではない」存在だったんですよね。声優デビュー自体はほかの作品でしていたとはいえ、当時の自分はあくまで女優のつもりでしたし、声を作ることなんて考えていませんでした。
さすがに子どもの頃のクラリスのセリフだけは声を少し作っていますが、ほかは全部そのままの自分の声で演じています。そのままの声だからこそ「ちょっと低くて、老けて聞こえるな。もう少しかわいく演じたらいいのに」と感じるシーンもありますが、あれはあれで二度とやれない演技ですので、初々しさはあるんじゃないかと思います。
長女の越川詩織さんが2012年に声優デビューしている
──島本さんにとって、宮崎監督の作品にはどのような思いがありますか?
やっぱり観てくださる方々の数が多いです。宮崎監督の作品に出していただくたびに初心に戻れるんです。どんなにキャリアを積んでも、「初めてやらせていただきます!」みたいな気持ちになって背筋が伸びるんですよね。
今もクラリスのことを「永遠のヒロイン」のように思ってくださる方がたくさんいます。そういう役と引き合わせてくださった宮崎監督との出会いは、私にとって本当に大きなものでした。宮崎監督と出会わなければ、今の私はいません。
後編では、島本さんのバイト下積み時代、舞台女優に区切りをつけて受け入れた“声優業”、そして、声優養成所の講師として生徒に思う「もったいない」と感じる理由などについて聞いた。
(後編に続く)
取材・文/原田イチボ(HEW)
【告知】
島本須美さん出演『singsジブリ』コンサート
井上あずみ、角野隼斗、菊池亮太、スペシャルゲスト加藤登紀子
日時:7月17日(月、祝) 開演:17:00〜(開場16:00~)
場所:東京国際フォーラム・ホールA
お問い合わせ:イープラス