──気絶したルパンにクラリスが「もし、もし!」と声を掛けるあのシーンですね。
現場で「なんだか電話をかけているみたいに聞こえる」と指摘されましたが、倒れている人を「もし」で起こす経験ってないでしょう? 言い慣れない言葉はやっぱり難しくて、何度も何度も「もし」をやりました。自分でも上手くいったなと思うシーンもあるんですよ。「みなさん、どうかお気をつけて。次元様も」のところは、男の人なら惚れちゃうんじゃないでしょうか(笑)。なかなか良い感じではないかと自画自賛しています。
宮崎監督が忘れられなかった“声”
──クラリス役はどのように決まったのでしょうか。
私はスタッフからいつものように「オーディションです」と言われて向かいました。詳しいことはわかりませんでしたが、オーディションには私しかいなくて、受けたらそのままクラリス役という感じでしたね。
実は、高畑勲さんが監督をされたアニメ『赤毛のアン』(フジ系)のアン役の最終オーディションに残ったことがきっかけでした。スタッフの方々のあいだで、アン役を山田栄子さん(『小公女セーラ』ラビニア役などでも活躍)と私のどちらにするか意見が割れたそうです。『赤毛のアン』で場面設定・画面構成を担当されていた宮崎監督はその時に私の声が少し気になっていたみたいです。
──クラリスというキャラクターをどのように捉えて演じたのでしょうか?
彼女はいろんなものを併せ持った人ですよね。優しくて儚げな佇まいだけど、流されるだけじゃなくて、芯となる強い思いも抱えている。そんなところを表現できればいいなと考えて演じました。
──クラリス役は大反響となりました。
公開当時の動員数は多くはなかったようですが、テレビ放送から人気がどんどん上がり、ファンレターがたくさん来るようになりました。「アニメーションが素敵でした」という内容はもちろん、クラリスを「理想の女性」と呼んでくださるお手紙もたくさんありました。1通1通、お返事を書きましたよ。大らかな時代だったので、ドラマの台本にサインを書いて送ったりしてね。どこか押入れの奥にまだ持っている人がいるかもしれませんね。
──物語の後、島本さんはクラリスはどうなったと思いますか?
観光事業には少し力を入れるかもしれないけど、カリオストロ公国が大きくなることよりは、国民が幸せに穏やかに暮らせるような道を選ぶんじゃないかと思います。ひとつ確かなのは、ニセ札はもう作らないということですね(笑)。