高級時計店に押し入った強盗(奥)と通行人=8日午後、東京都中央区[目撃者提供](時事通信フォト)
実行犯は捨て駒
強奪された高級腕時計74個、被害総額は約2億5千万円相当だったが、逃走車両周辺で見つかった黒いかばん2つから、すでに72個が回収された。
「今回の犯行は、後ろに指示役がいるだろう。強盗しても売りさばくルートが必要だ。あんなガキにそのルートはない」と幹部はいう。「高級時計にはシリアルナンバーがついているから、質屋に持ち込んだところで店側は引き取らない。すでに業界には、盗まれた商品の型番とシリアルナンバーが回っている。シリアルナンバーは偽造できない。1本2本なら、知人に売って小遣い稼ぎはできる。だが数十本となれば、盗品だと知っていて買い取ってくれるルートが必要だ」(幹部)。
強盗犯が外国人の場合、盗品を自国へ持ち出して売りさばくこともある。闇から闇へ売りさばかれてしまえば、品物を取り返すのは難しい。だが中には自らオークションサイトに出品して売るような犯人もいる。
「ある事件の被害者の1人から、ある日、警視庁に電話が入った。韓国のオークションサイトを見ていたら、盗まれた時計と同じ物が出ていると、通報してきたんです」と外国人強盗団の事件を数多く捜査した元刑事は話す。強盗事件が発生したのは平成の中頃のこと。被害者が通報してきたのは、時計を盗まれてから半年ほど経った時だった。「我々もその場で被害者が話したサイトにアクセスすると、確かに被害者が言った通りの時計が出品されていました」
韓国語が話せる捜査員が、すぐに韓国警察に電話し、事件概要を説明し、オークションに出品されている品物について調査を依頼した。
「すぐにオークションに出されていた時計のシリアルナンバーが、盗品と同じだと判明。そこから時計の出品者を突きとめ、芋づる式にグループを摘発しました」(元刑事)盗品をオークションに出せば、そこから足がつくのは当然だが、なぜ犯人はそのような危険を冒したのか。
「犯人の韓国人は、その時計が気に入ったらしい。だから売りさばかず、自分用に持って帰っていた。しばらくは自分で使っていたが、金が必要になり時計を売ろうと考えた。だが、まさか韓国のオークションサイトまでチェックしているとは考えていなかったようだ」(元刑事)盗品を売りさばこうとする時に、逮捕される犯人は多いという。元刑事も今回の事件について「売りさばくルートがなければ、あんな大胆な盗みはやらない」と話す。
「なんでも上のヤツらが儲かるようにできている。捨て駒の犯人たちはあれでいくら金がもらえたのか。まともにもらえなかったかもな」と暴力団幹部の声に哀れみが滲んだ。