渡された「拒予入境通知書」

渡された「拒予入境通知書」

強制送還は優先搭乗?

 私は、「なぜ? 理由を知りたい」と何度も言ったのだが、「決定だから」としか答えない。有無を言わさずサインさせられた書類の中の一つには「香港政府の出入国管理に関する法律の第11条により」というような文言があった。これは、後に聞いたが、「滞在許可は香港政府が決める」というだけの条文だ。そして、「これは、あなたが持っておくもの」として、「拒予入境通知書」(REFUSAL NOTICE)という書類を渡された。「私が次に香港に来ても同じ扱いになるのか?」と聞くと、「それは次に来たときにまた判断する」と言われた。そして、彼女は事務所に戻って行った。

 朝食の続きを食べながら、もう9年目になる香港訪問が、こうして最後になるのかと思うと、味気ない食事がさらにまずくなった。長年通った美食の都・香港で食べる最後の食事が、まさかこんなものか。なんともやるせない。

 香港を発つ時間になり、やっと私の荷物は返された。飛行機の搭乗ゲートまで3人の入管職員に同行された。私のパスポートは預けられたままだ。ゲート前で待機していると、搭乗開始前、なんと家族連れなどの次に案内された。強制送還は優先搭乗なのか。変な気持ちだ。搭乗機の入り口まで1人の職員がついてきた。私は最後に彼に手を振ったが、振り返してくれなかった。パスポートは航空会社の職員から「成田についてからお返しします」と言われた。

 飛行機での席は最後列だった。ここは、乗務員から一番目が届く場所であるようだ。意外なことに今回のフライトにはマイルが貯まるという。香港政府の金なのに……と思っていたが、後で知ったのだが、私のもともとの帰りの便の予約がこの便に振り替えになっただけのようだ。

 私が成田に着く前に私の入境拒否の速報記事が出た。その後、成田空港で海外メディアを含めて、何件もの取材対応をすることになった。メディア関係者の香港入境拒否は初めてのことだ。それなりにニュースバリューはあったようだ。何が原因だったのかという質問に対しては、正直に「何が理由だとは、入管の職員から最後まではっきりと伝えられなかった」としか答えられなかった。

 だが、香港当局が、著書『香港デモ戦記』で私が民主活動家たちの言葉を伝えたことについて気に入らなかったのだろう、ということだけは想像にかたくない。私自身は広東語も中国語もできないので、香港向けに何か情報を発信しているわけではない。あくまで日本に香港のことを伝えるという立場だった。しかし、それすらも、現在の香港は許さない状況となっているのだ。また、私自身が大手メディアの所属でないことも大きい気がした。入境拒否にあった前述の日本人2人の方も、フリーランスである。

 予定外に早く自宅に帰ることになってしまい、今こうして香港を思いを馳せると、思い起こされるのは、香港人の人懐っこい笑顔だけだ。2014年に雨傘運動の取材のために初めて香港に行った際、香港国民の民度に私は感動した。民主派のデモ隊もそうだったが、警察ですら、相手を尊重しながら、私に対しても大変親切だった記憶しかない。

 今は国安法によって、密告などが奨励されて、香港は疑心暗鬼の監視社会となっているという。香港政府の「ハロー香港」が、その地に来たものたちを落胆させて、「グッバイ香港」と言わせるキャンペーンにならないことを祈るだけだ。

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