沿線に鹿が多く、衝突することも増えている三陸鉄道(時事通信フォト)

沿線に鹿が多く、衝突することも増えている三陸鉄道(時事通信フォト)

 獣害に頭を悩ませていた小田原市にとっても、農作物被害で困っていた農家も、そして鉄道の安全性や定時性を高めるために獣害対策を講じていた小田急にとっても、ハンターバンクはwin-winの関係を構築できる新事業だった。

「小田原市には新幹線も停車する小田原駅があります。新幹線が停車するので駅周辺は都市化していますが、駅から少し離れると山が広がり、ミカン農家などが点在しています。そのため、イノシシやシカが出没して電車が止まることもありました。小田原駅は小田急にとって重要な駅です。巨大ターミナル駅の新宿駅とも一本でつながっていますから、野生動物による事故は多くの乗客に影響が出ます。また、小田原市も獣害被害は深刻な課題と捉えていたこともあり、ハンターバンクの立ち上げでは地域の農林業者とのつながりや狩猟に興味を持つ人々に関する調査に協力していただいております」(小田急電鉄ハンターバンクプロジェクトの広報担当者)

鹿が頻繁に出没することを逆手にとる

 小田急が始めたハンターバンクのような新事業のほかにも、新しい試みを打ち出した鉄道会社がある。それが2013年にNHK連続テレビ小説『あまちゃん』の舞台になった三陸鉄道だ。三陸鉄道は、岩手県の久慈駅―盛駅間の約163.0キロメートルを結んでいる。

「三陸鉄道の沿線には多くの野生動物が出没します。そのため、2日に1回ぐらいのペースで運休や遅れが発生しています。特に、釜石駅―鵜住居駅間は鹿が頻繁に出没する区間です。線路沿いには柵を設置するなど対策を講じていますが、追いついていません」と話すのは三陸鉄道の旅客営業部の担当者だ。

 悩んだ末、三陸鉄道は獣害を逆手に取った企画列車を走らせることにした。それが2022年から運行を開始したナイトジャングルトレインだった。

 ナイトジャングルトレインは列車から沿線に出没する野生動物を観察する列車で、その第一弾は2022年7月9日に運行された。日が沈んでから出発する臨時列車に乗り、照明を消した車内から外へライトを向けて現れるシカなど野生動物を観察。話題になったこともあり、35名の参加者枠は募集開始と同時に埋まった。そうした盛況ぶりから、第2弾のナイトジャングルトレインが2022年8月12日にも運行されている。

「2022年の夏季に運行した2回のジャングルナイトトレインは、どちらも大好評でした。そのため、冬季の運行も計画しました。しかし、沿線に出没する鹿を見るには窓を開けなければなりません。三陸鉄道は岩手県にあるので、冬季は気温が下がります。窓を開けると寒いので、乗客が快適に鹿を観察できる車内環境ではありません。そうした理由もあり、ナイトジャングルトレインの運行は夏休み限定にしています」(三陸鉄道旅客営業部の担当者)

 ナイトジャングルトレインが盛況だったことを踏まえ、三陸鉄道は2023年の運行日を4日間に増やした。2023年は7月29日、8月5日、8月11日、8月12日に運行される。

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