半導体受託製造で世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)などが建設を進めている半導体製造工場。工場予定地がある熊本県菊陽町は公示地価が上昇した(時事通信フォト)
配偶者控除や扶養控除の枠内、いわゆる「壁」と称される103万円であれ130万円であれ、同じ金額を稼ぐパートやアルバイトなら時給900円とか1000円で働くより1500円で働くほうが勉学や子育て、介護などの事情を鑑みれば効率的な面もある。本業があるならなおさらだろう。
「高齢者もそうだ。体力的な問題があるので短時間で高時給はやはり魅力的なように思う。私もそうだが、70歳を過ぎてフルタイムで働ける人はそう多くない。実感としても、それができたとしても、それは続かないことが大半のように思う。あなたも年齢を重ねればわかる」
いちがいには言えない、とはいえ現実だろう。筆者も自信がない。しかしこの国では2022年10月25日の「社会保障審議会年金部会」で国民年金保険料の支払いを5年延長、64歳まで延長する案が出た。政府は2025年の法改正で実現を目指すとするが、こうした「老後の不安」もかつてのフリーター、非正規問題から正規社員の副業、年金者の副業(便宜上使う)に問題にシフトしている要因かもしれない。
この急激な社会環境変化の中で、コストコという黒船が、この国の賃金の常識を変えようとしている。コストコだけの話ではなく、その「グローバルスタンダード」とされる地域差のない高時給と明確な昇給システムが「地方の給料は安いもの」「非正規の給料は安いもの」というこの国に一石を投じている。
岩手県に住む二児の母親もこう話す。
「コストコで働くとかでなくても、コストコに続いて地方の賃金が上がれば若い人も東京とか、大都市に行かず地元に残りやすくなると思います。もう都会も地方も関係なくお金のかかる時代ですから」
なぜ同じ仕事で地方が安いのか、なぜ同じ仕事で非正規が安いのか。居住地や身分(あえて使う)ではなく「なにをしているか」で労働の対価を決める。かつての日本だって短期や派遣だからこそ高い時代があった。昭和の日雇いの日給は高かったし、業務対象自由化以前の派遣は高時給の「スペシャリスト」だった。これまでのこの国の失われた30年の「常識」を疑う、これを教えてくれただけでもコストコという黒船の価値はあるのかもしれない。