しかし日本におけるコストコの時給、他にコストコが進出している先進国、新興工業経済地域と比べると決して高くはない。時給1500円はむしろ安い部類に入る。つまりコストコはそれらの国と比べて「安くて、真面目で、よく働く」日本人を手に入れることができる。宮城のコストコ進出の面接会では約1000人が集まり、そのうちの約400人が採用された。沖縄でも時給1600円スタートを予定していることはすでに書いたが、先んじて2023年8月には大阪でも和泉に次いで門真にコストコがオープンする。こちらも時給1500円~2000円ということで、やはり「グローバルスタンダード」は徹底している。
「コストコに人を取られるのもあるが、コストコが地域の時給を上げるのでは」
こうした声もコストコが進出した地域にある。コストコの店舗の数百人採用は確かに脅威で近隣のアルバイト、とくに学生など若者がごっそり移ってしまった、という話も聞く、それでさらなる人手不足に陥った店舗も実際、群馬にはあった。
しかし労働者からすれば「だったらコストコより時給を出せばいい」という実にシンプルな話で、そうでなければ「時給が多少低くとも労働者にとって魅力的な労働環境を提供する」という話でもある。いまや少子化どころか人口減少で人手不足は深刻。とくに飲食、小売、運輸、建設、介護の現場はまったく人が足りていない。しかしこうした業種の経営側に「時給を上げるか」と聞くと、大半は「難しい」「無理」の回答となる。
この国の多くの企業、とくに中小零細は労働者に対する待遇を「グローバルスタンダード」に切り替えることができないままに来た。岸田文雄首相は日本の最低賃金(全国加重平均)を「1000円」に上げたいと目標を掲げている。コストコの1500円すら国際的な流れとしては安いのに1000円。今年に入り勢いを増した物価の高騰と各種税金、社会保障費の負担増に追いつくには難しい「目標」である。しかしこの1000円すら地域や企業によっては応えられない、正社員すら時給換算で1000円いかない企業も多い。
時給が高ければ働く時間を短くできる
1999年にコストコが日本に進出して四半世紀あまり、この国の「失われた30年」そっくりそのまま「安くて、真面目で、よく働く」日本人を地域でもより高い時給で迎え入れ、コストコは成長してきた。とくに小売は「急激な社会環境変化への対応遅れ」(一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会による資料、2022年)によって多くの労働者からそっぽを向かれて久しい。拙筆『「代わりはいくらでもいる」時代の終わり あらゆる現場の人手不足をどう解消するか』でも言及したが、もはや人手不足の業界は「労働者の代わりはいくらでもいる」と選ぶ側ではない。労働者の方から「働く場所はいくらでもある」で選ばれなくなっている。
ちなみに若者(学生)や主婦からは「時給が高いと入る時間を少なくできる」という声もあった。都内でコンビニを経営するオーナーもこう語る。
「以前はフリーターがフルタイムというのはあったが、最近は主婦、学生、あとサラリーマンやフリーランスの副業という人が多いように思う。彼らからすれば扶養の範囲内とか、あくまで副業として限られた時間に入りたいという人が大半だ。そういう人からすればシフトの量より都合がつくこと、そして時給が高いほうがいい」