この三日間、法廷を見ているだけだった裁判員六名は、第四回公判ではじめて被告人質問をする場が与えられた。一般人の感覚だけに、シンプルで鋭い質問が飛んだ。最初に質問をしたのは、若い男性だ。
裁判員「裏寝覚(注:長野県木曽郡上松町にある景勝地「寝覚の床」の一角のこと)で餓死しようとしていたとき、持ち物にガスコンロやサプリメントなど、食べ物を持っていたと言っていました。餓死のときに、必要ないのではないですか?」
小島「いや、餓死するにはちょっと色々問題があって、サプリメントで塩化カリウムなどを摂取しないで餓死しようとすると、苦しみ悶えて死んでしまうんです。必須アミノ酸やビタミン、ミネラルは取って死んだほうがガリガリになって骨と皮になって餓死できるんです」
このとき、傍聴席から失笑が漏れた。餓死の方法にこだわりを見せている小島が、あまりにも滑稽だったからだろう。もしかすると小島は、なぜ自分が笑われているかわからないという状況を、これまで何度も経験しているのかもしれない。続いて、中年男性から質問が飛んだ。
裁判員「死刑や有期懲役や無期懲役、あなたにはこだわりがあるようですが、一人でも死刑になるとは思いませんでしたか?」
小島「強盗殺人、強姦殺人などは一人でも死刑になります。単純殺人は刑が軽いので、こんなもんだろうと。強姦とかはやりたくないと思っていました」
裁判員「もしZ夫さんと同じ目にあうとしたらどう思いますか?」
小島「絶対に許せないです」
裁判員「例えば馬乗りになって、ナタを振り下ろされる瞬間、あなただったらどう思いますか?」
小島「怖い、生きていたい、傷は治るかな、と色々考えると思います」
裁判員「自分はそうなっても構わないと?」
小島「いえ、絶対許せないだろうし、社会に出てきて欲しくありません」
小島の自己中心的な言い分は最後まで変わらなかった。しかもこれは、無期懲役になるためのパフォーマンスであると公言しているのだ。「有期刑になって出所した後にまた人を殺すよりは、無期刑になることを優先したほうがいい」というのが、彼の理屈だ。殺されたZ夫さんの遺族にとっては、そのことが一番悔しかっただろう。最終弁論では、弁護人を通して、Z夫さんの母の想いが代読された。
「なぜこんな事件が起きたのか、きちんと知りたいと思っていました。けれど、真実は結局何も明らかになりませんでした」
(了。前編から読む)