コストコは会員向けに安くガソリン販売をしていることでも地域に波面を広げている(イメージ、Sipa USA/時事通信フォト)
残念ながら今回の最低賃金改定でも人手不足は解消すまい。そもそも今の事態は人口減と少子化によるもので、実数に起因する問題なので手遅れなのだ。TSMCやコストコのように「グローバルスタンダード」の日本という括りで高賃金を提示するか(それでも世界全体でも日本の平均賃金はすでに下位にある)、たとえばスターバックスのように働きたいと思わせるような付加価値を企業側が労働者に提供するか、それともホワイトとされる大手企業や一部の成功しているベンチャーのような自由で、労働者のライフワークに合わせた環境を整備するか。そうした企業の努力と、労働者という人間の人生に一定の責任を持つ倫理観を持ち合わせていない企業は今後確実に淘汰される。
45円の引き上げに反対したのか、それとも中央値の6円引き上げで収めたかったのかはわからないが、853円から892円にすることに経営者全員が反対するこの現実、これは熊本に限らず全国、とくに地方の審議会では顕著であった。
「代わりはいくらでもいる」から800円程度の時給で人間をこき使うつもりなのかは知らないが、いまや少子化と人口減により労働者側すれば「働く場所などいくらでもある」なのだ。そして労働者とは圧倒的多数の消費者でもある。消費者からしても「店などいくらでもある」だ。
経営者すべてがそれに気づいていないわけではないのは当然だが、気づいていない、見て見ぬふりどころか自分がよければどうでもいい、運良く安い奴隷が来ることを願うようなゾンビ企業が、いよいよ退場すべき時が来ている。
【プロフィール】
日野百草(ひの・ひゃくそう)日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経てフリーランス。社会問題、社会倫理のルポルタージュを手掛ける。
2023年度の最低賃金引き上げ額の目安が7月28日決まり、全国平均の時給が初めて1000円の大台に乗る見通しとなったことについて岸田文雄首相は「歓迎したい」と述べた(時事通信フォト)