ライフ

伊集院静氏が考える「戦争」と「英雄」 ナポレオンの足跡を旅して見えてくる“戦争を肯定する大衆の意志”

作家・伊集院静氏はナポレオンの足跡をたどる旅を通じて何を考えたのか

作家・伊集院静氏はナポレオンの足跡をたどる旅を通じて何を考えたのか

 人々はなぜ戦争という惨禍に突き進んでしまうのか。ウクライナ侵攻を仕掛けたロシア・プーチン大統領の心の内はわからない。だが、世界の歴史を振り返ると、それは戦争の歴史でもある。どこの国も戦争に勝利することで国民は高揚し、指導者を「英雄」として称えてきた歴史がある。その象徴とも言えるべき存在が、革命直後のフランスに颯爽と登場し、皇帝の地位まで一気に上り詰めた、ナポレオン・ボナパルト(1769~1821年)だろう。

 ナポレオンの人生とその足跡をたどることで、戦争とは何か、英雄とは何かを考える──。作家・伊集院静氏の新刊『ナポレオン街道 可愛い皇帝との旅』は、旅行エッセイでありながら、大きなテーマを内包している。

 同書の元になった原稿は、1990年代後半、まだ日本にバブル景気の余韻が残っていた時代に、週刊誌に連載されたものだ。フランス各地で貪るようにショッピングに興じる日本人の団体旅行客の姿を目にした著者は、「日本人はいつからこんなにマナーが悪くなったのだろうか?」とため息をつく。昨今は訪日外国人客の爆買いやマナーが話題になることもあるが、その時に日本人の多くが抱く複雑な感情と鏡写しのようでもある。

 旅はナポレオンが生誕したコルシカ島に始まる。戴冠式(ノートル・ダム寺院)が行われた場所であり、今も棺が安置されている(アンヴァリッド廃兵院)パリには、ナポレオンゆかりの建造物も多い。凱旋門は言うに及ばず、ルーヴル美術館の基礎を作ったのもナポレオンだ。流刑されたエルバ島から脱出し、驚くべき速さでパリまで進軍を続けた道のりは「ナポレオン街道」と呼ばれる。そしてエジプト遠征の意義を考えるべく、ギゼーのピラミッドにも足を運ぶ……。終焉の地であるセント・ヘレナ島への訪問こそかなわなかったが、短期間で広範に及ぶ地を精力的に旅している。

 ナポレオンに関する厖大な資料を読み込み、時にはフランスの研究者やナポレオンゆかりの人たちの子孫にまで話を聞きながらも、著者はナポレオンについて「好きでも嫌いでもない」と言う。法典を整備し、道路やルーヴル美術館、競馬の基礎を作るなど、数々の偉業を成し遂げた「英雄」と呼ばれる人物であっても、礼賛一辺倒になることはない。それはナポレオンが戦争に明け暮れた事実があるからだ。

〈偉大と言うが、私にはこの英雄のそばに夥しい兵の屍があったことが、彼を支持できな
い理由である。〉(同書より・以下同)

関連記事

トピックス

小島瑠璃子(時事通信フォト)
《亡き夫の“遺産”と向き合う》小島瑠璃子、サウナ事業を継ぎながら歩む「女性社長」「母」としての道…芸能界復帰にも“後ろ向きではない”との証言も
NEWSポストセブン
会見で出場辞退を発表した広陵高校・堀正和校長
《海外でも”いじめスキャンダル”と波紋》広陵高校「説明会で質問なし」に見え隠れする「進路問題」 ”監督の思し召し”が進学先まで左右する強豪校の実態「有力大学の推薦枠は完全な椅子取りゲーム」 
NEWSポストセブン
起訴に関する言及を拒否した大谷翔平(写真/アフロ)
大谷翔平、ハワイ高級リゾート開発を巡って訴えられる 通訳の次は代理人…サポートするはずの人物による“裏切りの連鎖” 
女性セブン
日本体操協会・新体操部門の強化本部長、村田由香里氏(時事通信フォト)
新体操フェアリージャパンのパワハラ問題 日本体操協会「第三者機関による評価報告」が“非公表”の不可解 スポーツ庁も「一般論として外部への公表をするよう示してきた」と指摘
NEWSポストセブン
スキンヘッドで裸芸を得意とした井手らっきょさん
《僕、今は1人です》熊本移住7年の井手らっきょ(65)、長年連れ添った年上妻との離婚を告白「このまま何かあったら…」就寝時に不安になることも
NEWSポストセブン
暴力問題で甲子園出場を辞退した広陵高校の中井哲之監督と会見を開いた堀正和校長
《広陵高校、暴力問題で甲子園出場辞退》高校野球でのトラブル報告は「年間1000件以上」でも高野連は“あくまで受け身” 処分に消極的な体質が招いた最悪の結果 
女性セブン
代理人・バレロ氏(右)には大谷翔平も信頼を寄せている(時事通信フォト)
大谷翔平が巻き込まれた「豪華ハワイ別荘」訴訟トラブル ビッグビジネスに走る代理人・バレロ氏の“魂胆”と大谷が“絶大なる信頼”を置く理由
週刊ポスト
お仏壇のはせがわ2代目しあわせ少女の
《おててのシワとシワを合わせて、な~む~》当時5歳の少女本人が明かしたCM出演オーディションを受けた意外な理由、思春期には「“仏壇”というあだ名で冷やかされ…」
NEWSポストセブン
広陵野球部・中井哲之監督
【広陵野球部・被害生徒の父親が告発】「その言葉に耐えられず自主退学を決めました」中井監督から投げかけられた“最もショックな言葉” 高校側は「事実であるとは把握しておりません」と回答
週刊ポスト
薬物で何度も刑務所の中に入った田代まさし氏(68)
《志村けんさんのアドバイスも…》覚醒剤で逮捕5回の田代まさし氏、師匠・志村さんの努力によぎった絶望と「薬に近づいた瞬間」
NEWSポストセブン
自宅で亡くなっているのが見つかった中山美穂さん
《ずっと若いママになりたかった》子ども好きだった中山美穂さん、元社長が明かした「反対押し切り意思貫いた結婚と愛息との別れ」
週刊ポスト
「週刊ポスト」本日発売! 「石破おろし」の裏金議員「入閣リスト」入手!ほか
「週刊ポスト」本日発売! 「石破おろし」の裏金議員「入閣リスト」入手!ほか
NEWSポストセブン