会談に臨む自民党の高市早苗総裁(時事通信フォト)
自民党の高市早苗総裁が政治資金収支報告書に不記載のあった議員の登用を加速させている。党幹事長代行に萩生田光一氏を起用したのに続き、17日には政調会長代理に、旧安倍派の柴山昌彦・元文科相と江島潔・参院議員を充てる人事を決めた。不記載問題は“みそぎ”が済んでいる、という高市氏のスタンスをさらに強めたようだが、高市氏支持派と国民の意識は乖離を始めているように見える。
時事通信が10月10日から13日に行った世論調査では、派閥資金の不記載問題に関わった国会議員を党の要職に起用することについて、「反対」が71.4%で、「賛成」の10.2%を大きく上回った。自民党支持層に限っても「賛成」は21.8%にとどまり、反対は58.5%に上ったという。
全国民からの抽出となる一般の回答者より自民党支持層のほうが「賛成」の比率が高いのは、自民党総裁選で裏金問題は「人事に影響しない」と総裁選で公言していた高市氏に投じた4割の党員・党友がいるからだろう。
自民党は参政党に票を奪われたわけではない?
その高市氏は、自民党の再生の方策として「安倍政権で投票した方々がすごい勢いで自民党を見限った。それを取り返す」とも述べていた。高市氏の支持の源泉である岩盤保守の層に「裏金問題は終わった」という考えの人たちがいるのは確かだろうが、世論調査は、それが一般の国民の考えとはズレていることを如実に示している。
確かに、7月の参院選の敗因について自民党は、「若年層・現役世代と一部保守層」の流出を挙げ、「LGBT法の成立に対する不満、(略)『政府・与党は日本人よりも外国人を優遇している』等の疑念も一部世論に生まれ、他党へ流出することとなった」と記した。
多様性に対する懐疑や外国人問題を強調した参政党を意識した書きぶりだった。起草にあたった選挙総括委員会関係者によれば、「LGBT法」をあえて入れたのは、党内の保守派議員の強い突き上げがあったからだ。ただ、データを見直せば「保守票が参政党に流れ党が弱体化した」という解釈には疑念が残る。
例えば、1議席をめぐって自民党現職を2万8000票差まで追い詰めた群馬県選挙区のデータ(朝日新聞の出口調査=7月22日公開)では、国民民主党支持層の59%、れいわ新選組支持層の57%が参政党に投じたのに対し、自民党支持層で参政党に投じた人は15%にすぎない。保守票が逃げた先は参政党というより日本保守党だろう。
1人区全体の調査(朝日新聞7月20日付)では、無党派層の22%が参政党に投票している。2022年の前回参院選の9%から大幅な増加となっている。
実際、参政党代表の神谷宗幣氏は筆者の取材に「自民党や他党の票を取ると言われるが、他党の顧客を取るのではなくて、どこにもついていない50%(投票していない有権者)にアプローチするのが参政党のコンセプト」と語り、他党と競合しない“ブルーオーシャン”こそがターゲットだと述べた(詳細は「ニューズウィーク日本版」10月21日号に寄稿したロングレポートをお読みいただきたい)。
自民党の保守派は「参政党に保守票を奪われた」と強調したのに対し、当の参政党は「新しい市場を開拓した」と言う。受け止めが全く異なるのだ。