新たな経済対策の「柱立て」について説明する岸田文雄首相。中小企業への支援も継続としているが、インボイス制度導入は小規模事業を圧迫するとみられている(時事通信フォト)

新たな経済対策の「柱立て」について説明する岸田文雄首相。中小企業への支援も継続としているが、インボイス制度導入は小規模事業を圧迫するとみられている(時事通信フォト)

「すべての企業が莫大な経理業務に対する費用と人員を割けるとでも思ってるんですかね、日本の会社なんてほとんどは小さなもので、その中でも経理なんて最低限の人数でこなしてるんですよ」

 ネットの大きな声ばかりを目にすると、まるで日本は大企業勤務のサラリーマンや景気のいい自営業者ばかりのように思わされるかもしれないが、日本のリアルは全企業の99.7%が中小企業であり、70%近くが中小企業の従業員である(経済産業省)。

「それに、取引先の免税業者だって全部が課税業者になるわけじゃないです。むしろ『インボイス対応は無理です』とバンザイする業者もいます。かといって、彼らがいないと仕事にならない。ただでさえ、うちは人手不足で技術を持つ人は限られる業種です。そう言われたから切る、なんでできない。うちが被るしかない」

 インボイス制度によって課税業者にならないフリーランスが切られる、という言説もまた業種によっては風向きが変わってきた。専門技術や限られた職人の技によって支えられるような製造業や制作事業、クリエイティブ関連などの一部では「免税業者のままで構わない」という企業もある。

「うちは無理ですけど、そういう会社はあるでしょうね。それほどフリーランスと付き合いがなくて、かつその彼らが会社を支えてるくらいに実力があったり、特殊な専門性を持っているならそういう判断もあるかもしれません」

 以前のように「代わりはいくらでもいる」とはいかない業種も当然あるわけで、外注すべてにそれこそバンザイされてしまったら企業も成り立たない。そのため課税業者の登録を済ませたはずが取り消しで再び免税事業者、というフリーランスも相次いでいる。筆者の知るクリエイティブ職の中にも「免税業者でいいって話だから」ということで、逆にインボイス導入を即す小規模な取引先企業を切るケースもある。人気と実力があるからこその対応だが、いちがいにフリーランスばかりが切られる、というわけではないのが人手不足、人口減の日本の現状でもある。そうなれば課税分を被るのは企業側だ。

ベテラン経理担当者「実は私もよくわかってない」

 アニメやゲーム、コミックに限らずクリエイティブ職もまた企業とフリーランスの関係にインボイスが暗い影を落とす。旧知の制作会社経営者の話。

「インボイスを導入しないから切るようなことはしない。というか切れない。これは実質的な増税だと思う」

 経営者である彼は、フリーランスが優秀だから切れないとか、一流のクリエイターだから切れないという話でもないと語る。

「単独でパッケージまでもっていけるジャンルの芸術家ならともかく、私たちの仕事は集団による総合芸術ですからね。アニメだってゲームだって、二流や三流がたくさん集まって一流の作品を作るんです。一流が集まったから一流になるわけじゃありませんし。それに最初から誰もが一流なわけでもないし、例えばゴッホなんて死んでから一流にされたようなものでしょう。生前は一枚しか売れなかったわけで」

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