1987年、安田火災(現・損保ジャパン)に53億円(当時の為替換算)で購入され、日本に到着したゴッホ作「ひまわり」。生前のゴッホは絵がまったく売れない貧乏画家だった(時事通信フォト)
19世紀の画家、フィンセント・ファン・ゴッホの生前売れた枚数には諸説あること、そもそも弟のテオが生活費をくれたので食べるに苦労してはいなかったという逸話はともかく、この一流、二流、三流を誤解しないで欲しいのは、あくまで上下や貴賤の話ではなく制作上の「役割」という部分での話である。
筆者もこうした制作現場を経験したが、アニメやゲームはむしろ三流どころか四流、五流どころか駆け出しの才能すら合わせた相乗効果で一流の作品にも、駄作にもなる。決して一流だけで作品は作れない、これは一般の会社経営だって同じだろう。そもそも役割の問題で、映画を撮影するのに評価の高い、天才的な照明師がいても決してギャラが主役や監督より高いことはない。そこに優劣はなく、ただ役割がある、というだけである。クリエイティブに限らず、対価の良し悪しと才能や技能の優劣が常にイコールとは限らない。
「ファミレスやファストフードだって一流シェフがいるわけじゃありません。むしろ一流シェフがいたら迷惑かもしれませんね。でも二流、三流という役割の人たちが一流のサービスを提供している。自動車だって、何だってそうですよね。そういう役目の人たちが仕事を続けられなくなる、物が作れなくなるというのがインボイスの問題だと思います。日本のコンテンツは一流だけでない二流、三流どころか名もなきクリエイターたちの集約が強みだと思うのですが」
その制作会社の経理の方にも話を伺えた。彼女は「とても面倒です」と社長と苦笑いでこう答えてくれた。
「請求書のダウンロードとか面倒ですね。各社システムが違いますし、IDとかパスワードとか、受け取るだけでも以前より面倒です。インボイスの帳票に変更するだけでも、それなりに予算も手間は掛かると思います」
彼女は社長に「いいですか?」と問いかけ、社長の頷きを待って正直に話してくれた。
「実は私もよくわかってないんです。だって本当にわからないんですもの。経理は長いつもりですけど、完璧にインボイス制度後に決められたすべてをこなすの、無理です」
もちろん謙遜で、実際は小さな会社の経理を一手に引き受ける優秀な方なのだが、だからこそわかる部分というか、本音のところ現場はそうなのかもしれない。いや、大手企業すら個々の経理担当者はもちろん総務、営業といったインボイスに多少なりとも関わる社員で理解している人がどれだけいるか、領収書の問題ひとつ取ってもSNS上では「無駄な仕事が増える」「後は野となれ」といった本音も聞く。
もちろん「課税業者にならなければ仕事は出せない」とする企業もある。政府はインボイスを理由にした取引の停止や減額要求をしてはならないと注意勧告しているが、筆者の後輩の勤める中小出版社は「作家やデザイナー、校正者の重要度にもよるが、やんわり付き合いを止めるように言われた」と話している。