東日本大震災(時事通信フォト)
もうひとつ、東海沖などのノイズを拾う観測機4号で兆候が出始めているのが三重県周辺だ。
「一昨年の12月からそれほど大きな数値ではないものの、ノイズの反応が増えています。このまま増え続ければ、東海・東南海エリアでも地震が起きる可能性があります」
大学や国の専門機関も予知研究を進めている。高橋さんは東京大学が行っている「スロー地震」に注目する。
「東京大学地震研究所では、陸のプレートと海のプレートのひずみが人が揺れを感じないレベルで非常にゆっくりと解放される『スロー地震』という現象の発生を観測し、解析することで巨大地震の発生メカニズムを解明すべく研究に乗り出しています」(高橋さん・以下同)
実際に東日本大震災のほか、チリやメキシコで起きた大きな地震の前には「スロー地震」が観測されていた。京都大学の地震災害研究センターが着目しているのが「流体」だ。
「流体とは、地下深いところにたまった大きな水たまりのようなものであり、成分はマグマやガス、水などさまざまな物質が推定されていますが、まだはっきりとは明らかになっていません。同大学では石川県能登地方で半年以上続いている群発地震の原因を、この流体が断層のすき間に広がり、破壊することにあるとして、研究を進めているのです」
研究は予測や分析に限らない。国立研究開発法人海洋研究開発機構は「プレート境界の状態を直接観測する」ことを主に活動している。
「現在、三重県の紀伊半島や高知県の室戸岬の海底に穴を開け、ユーラシアプレートとその下に潜り込んでいるフィリピン海プレートの境界がどうなっているか調べようとしています。もし、プレート境界の岩石の組成や水分量など具体的かつ細かいデータがわかれば、それらの要素がどのように『すべり』に影響しているのか判明する可能性があるので大変興味深いですが、これも容易ではありません」
地震の予兆は、時に五感にも訴えかける。そのひとつが「異臭」だ。
「1923年の関東大震災の記録では『ガスが噴き出した』という記録があります。どのような条件の地震に対応するかは明らかになっていませんが、岩石が割れる際に『焦げたようなにおい』がするので、それが予兆の可能性はある」
大気中のラドン濃度の減少も予兆のひとつだ。東北大学が2021年4月2日に学術雑誌『サイエンティフィックレポート』に掲載した研究では、2018年の大阪北部地震が起こる前に大気中のラドン濃度が大きく下がったことが確認された。原因は地域の地震活動により岩盤に生じる割れ目が、大気中のラドン濃度に深く関与していると考察されている。