師匠の杉本昌隆八段と地元・名古屋で凱旋会見をする藤井(写真/共同通信社)

師匠の杉本昌隆八段と地元・名古屋で凱旋会見をする藤井(写真/共同通信社)

「それはもう、もちろんですよ」

 家族に支えられた藤井はプロ入り後に連勝街道を突き進み、デビューから29連勝を記録する。2020年に17才11か月という史上最年少で初のタイトルを獲得してからも、AI研究全盛期の将棋界で無類の強さを誇り、八冠独占を成し遂げた。

 その強さについてほかの棋士たちは、序盤の組み立てのうまさや終盤の読みの強さなどをあげる。“藤井以前”のスーパースターである羽生九段は藤井について、「詰む、詰まないの計算速度が異常に速い」と評している。

 多くの人を引き寄せる“人間力”も魅力だ。高校を中退してプロの道に専念した藤井は祖父母の深い愛情に触れて育ったからか、各界を代表する年長者たちにかわいがられている。そのひとりが、ノーベル生理学・医学賞を受賞した京都大学iPS細胞研究所名誉所長の山中伸弥さん(61才)。2018年8月に藤井が山中さんの研究所を訪れて以降、40才の年の差をモノともせず交流を続けている。

 それ以上の年齢差があるのが、元伊藤忠商事社長の丹羽宇一郎さん(84才)だ。同じ愛知県出身で、カリスマ経営者の丹羽さんは孫のような年頃である藤井を「63才離れた最も若い友人」と呼び、敬意をはらう。

 さらに、藤井が「最も尊敬する人」と公言するのがタモリ(78才)だ。6年前にスポーツ紙の企画で対談した2人には幼い頃、ともに電車の運転士を夢見たという共通点があり、すっかり意気投合したという。今回の八冠達成についてタモリは『スポーツニッポン』(10月13日付)に寄せた手記でこう祝福した。

《まだ21歳。前人未到の8冠制覇すら通過点。その“道なき道”を切り開いていく信条は、きっと今も目の前の「一手一手」なのでしょう。だからこそ、どんな苦境からも逆転できる》

 世代を超えて愛される能力を持つ藤井は年長者たちに、地元で自身への声援を送り続けてくれた祖父を重ねているのかもしれない。

「昨年、おじいちゃんが亡くなったときはコロナがあったのでお見舞いが制限されたようです。なかなかお見舞いができなかった聡太くんは『八冠をとった姿をおじいちゃんに見てほしい』と意気込んで将棋に打ち込んでいました。その夢がかなわなかったのは残念ですが、天国でおじいちゃんも喜んでいることでしょう」(藤井家の知人)

 八冠を獲得した姿をご主人に見せたかったですね──そう本誌『女性セブン』が問いかけると、祖母の朋江さんはこう語った。

「それはもう、もちろんですよ。生きていたら、どれほど喜んでくれたことか……」

 タイトルが増えれば増えるほど対局数も増え、タイトルを保持することが難しくなる。藤井はすでに竜王タイトルの防衛戦が始まり、年が明けてからも王将戦、棋王戦と続いていく。“藤井一強”とも称されるなか、次の話題は羽生九段が持つ全冠独占の記録を更新できるかどうかに移る。

「1996年2月に七冠独占を果たした羽生さんはそこから防衛戦に追われて、その年7月の棋聖戦に敗れて167日で七冠独占から陥落しました。すべてのタイトルを守るというプレッシャーは相当なもので、棋聖戦に敗れた羽生さんは『通常に戻れるのでホッとした』と本心を語ったほどです。それ以上の重圧が若い藤井竜王にのしかかるでしょう」(将棋関係者)

 20代後半でピークを迎えるとされる棋士の世界で、藤井はまだ21才。気力、体力ともに充実した状態で勝負できる期間は長い。祖父母と両親に育まれ、強さの底が知れない彼は今後どこまで記録を伸ばし、どんな偉業を成し遂げるのか。伝説は始まったばかりだ。

※女性セブン2023年11月2日号

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