「死は誰にでも訪れるもので、残された人のためにも自分がどう逝きたいのか、考えていることを相手に伝えておくのは大切なこと。送る側も夫の死後に後悔しないためにも生前に夫婦で話し合っておきたい。確かに話を切り出すタイミングが難しいけれど、夫が定年になったときや身近な人が亡くなったときなど、自分や周囲に何らかの変化があったときがチャンスです。そこでダメだったら、また次の波を待てばいいと思います」
夫婦の共同作業によって完璧な終活を果たし、文郎さんは2014年に旅立って行った。アナウンサーとしての仕事に強い誇りを持ち、生涯現役を貫いたゆえ、仕事に関する本や資料、衣装などは「生前整理」の対象にならず大量に残ったままだった。しかし、由美子がそれらの遺品に手をつけられるようになったのは夫を送って10年近く経った最近のこと。
「資料や衣装を見ると思い出がよみがえってきてしまってなかなか片付けることができないでいたんです。だけど少し前に引っ越したことを機にぽつぽつと整理を始めました。何とか段ボール10箱分くらいにまとめて、ふたりで一緒に仕事をした台本や写真、彼がよく着ていた3着の衣装は大切に取っておくことにしました」
不要なものをせっせと減らした一方で、大切なものは手元に残している。それは「人とのつながり」だ。
「結婚生活は短かったけれど、山本とは24時間一緒にいて濃厚な時間を過ごせました。しかも彼は自分が亡くなった後を見据えて、仕事や飲み会などの場には必ずふたりで出向いて、大勢の知人に私を紹介してくれました。そのとき彼に紹介されたかたたちとのおつきあいはいまも続いていて、さまざまな面で私を助けてくれています」
今年5月、由美子は俳優の石田純一(69才)と焼き肉店を千葉県船橋市にオープンした。これも文郎さんがつないだ縁だった。
「主人が亡くなる数日前、一緒に訪れたのが石田さんの娘・すみれちゃんのファーストコンサート。それを機に家族ぐるみのご縁ができて、石田さんとお店を開くことになりました。いつも『人のいいところを見ろ』と言って、仲間の大切さを説いていた彼と一緒になれたことには、感謝しかありません」
【プロフィール】
山本由美子(やまもと・ゆみこ)/東京都出身。山本文郎さんとの結婚後、テレビ業界デビュー。旅番組やバラエティー番組など各方面で活躍。夫を見送った後もタレント業を続ける傍ら、事務所を継いでブライダルファッションデザイナー桂由美さんのサポートや飲食業と幅広く活動している。
※女性セブン2023年11月2日号