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王貞治氏が語る長嶋茂雄氏との「いい意味での距離感」 一度だけミスターに聞いてみた質問

左から長嶋茂雄氏、川上哲治氏、王貞治氏

左から長嶋茂雄氏、川上哲治氏、王貞治氏

 90年の歴史がある日本プロ野球においても、1965年から1973年にかけて達成された巨人の9年連続日本一は「不滅の記録」として位置づけられる。それはまた、野球がもっとも熱かった時代の記憶でもある。ONという球史に残るスーパースターとしてチームを引っ張った王貞治氏(83)が当時を振り返る。【全4回の第3回。第1回から読む

 * * *
 ジャイアンツでは長嶋(茂雄)さんが長男で、ボクは次男坊なんですよ。だから川上さんはボクではなく長嶋さんを叱っていました。長嶋さんを叱れば選手にも伝わり、チームを引き締められるということなんでしょう。

 長嶋さんも自分が叱られることによって、監督が全員に伝えたいという意図があることをわかっていたんじゃないでしょうか。ただ、長嶋さんは何を言われても関係ないというぐらい自分の世界で野球をやっていましたけどね。

 そういう意味では長嶋さんはベールに包まれた部分があった。ボクはバカ正直というか、あけっぴろげ。どこを切っても同じ“金太郎飴”のようなもの。長嶋さんは舐めるたびに味が変わる。次は何が出てくるかわからない魅力がありました。

 ONはいい意味での距離感があったと思います。長嶋さんは入ってこようともしないし、ボクも入ろうとしない。だから長嶋さんと野球論を戦わすということもなかった。

 ただ、一度だけ「お客さんを意識してパフォーマンスをしているんですか」と聞いたことがあります。長嶋さんは「そうだよ」と答えていました。これには驚きました。

 要するに、ボクらには余裕がないんですよね。相手投手と向き合って必死にやっているので、試合中はお客さんが眼中にないというか、意識する余裕がなかった。長嶋さんは「どうやればお客さんにウケるのか」とか、「どうやれば喜んでもらえるのか」を意識しているという。凄いな、勝てないなと思いましたよ。

 長嶋さんはとにかくチャンスに強かった。それを日本シリーズで遺憾なく発揮したよね。長嶋さんは大きく外した高目のボールでもホームランにしちゃうけど、ボクは“グッドボールヒッター”というか、甘い球を逃さずに打つタイプだった。

 そのためボクはピッチャーの失投を見逃さないけど、難しい球を打てる確率は低い。長嶋さんはド真ん中でもミスることがあるけど、クソボールをホームランにしちゃう。ピッチャーとしては、ボクのほうが打ち取りやすかったと思います。

 今のプロ野球選手はピッチャーの球種が多くなったことで、昔の選手より球際に強いというか、ねちっこいバッティングをします。ただ長嶋さんは当時からそうでしたね。

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