羽生善治氏(写真/共同通信社)

羽生善治氏(写真/共同通信社)

AI全盛時代の寂しさ

逢坂:全盛期の羽生さんと今の藤井くんが対局したらどっちが勝つかな。最近の会見で羽生さんは「全くかなわない」と謙遜していたけど。

黒川:たぶん藤井くんやないですかね。中終盤力は互角でもAIで鍛えた技術が藤井くんにはある。

逢坂:へえ、差が出るもんかね。

黒川:人間の力だけで勝てる時代はもう終わりました。今はAIが勝つ時代です。

逢坂:でも、そうなっちゃうとつまらないね。勝負事にAIを取り入れることには何か反発を感じるな。人間のやる競技は機械を頼るのではなく、人間の力を出してほしい。それで言うと、羽生さんの将棋には盤面を美しくしたいという人間味を感じるんだよな。

黒川:たしかに羽生さんは相手が悪手を指すと残念そうな顔をすることがありました。史上最年少名人(当時)となった谷川浩司さんも終盤に“光速の寄せ”を披露して、リスクを冒してでもできるだけ綺麗に勝とうとする美学が感じられましたね。

逢坂:藤井くんにそうした意識はあるのかなぁ。

黒川:勝ち負けに徹しているような印象ですよね。

逢坂:それもAIの影響なのかもしれないね。実は私は一度、テレビ番組で羽生さんと対局したことがあるんです。“天下の羽生”と指すので緊張したけど、対局中に羽生さんが「それはいい手です」と言ってくれて、アマ三段の免状をくださった。それは宝物として大事に飾ってあります。

黒川:僕も羽生さんは大好きです。以前、「近鉄将棋まつり」というイベントに呼ばれた時、僕の嫁はんとプロ棋士の本間博さんが6枚落ちの将棋を始めたんです。

 羽生さんは本間さんの後ろで対局を観ていて、嫁はんが一手指そうとするたびに「それはイカン」とか「うんうん、いい手だ」といった顔をするから、彼女は羽生さんの表情を見て指し手を変えていました(笑)。それで嫁はんが勝ったら、羽生さんが拍手してくれて、「あの角切りはいい手でした」と褒めてくれた。それから彼女は羽生さんの大ファンなんです。

逢坂:なんだ、羽生さんからの恩恵にあずかったのは私だけじゃなかったのか。

黒川:ハハハ。羽生さんには素人を喜ばせて、将棋を広めようという意識が物凄くありますね。いつかまたタイトル戦で藤井くんと対戦するかもしれません。前人未到のタイトル通算100期がかかった勝負です。53歳と21歳で約30歳差になりますか。僕は羽生さんに肩入れしてしまいますね。

逢坂:私も同じです。「人間の羽生」VS「機械の藤井」みたいな感じで厳しいかもしれないけど、何とか藤井くんを負かしてほしいね。

後編へ続く

【プロフィール】
逢坂剛(おうさか・ごう)/1943年、東京都生まれ。中央大学法学部卒業後は、博報堂に勤める傍ら執筆活動を行ない、1986年に『カディスの赤い星』で直木賞を受賞。「百舌シリーズ」「禿鷹シリーズ」など著書多数。文壇にかつて存在した将棋タイトル「棋翁位」の設立メンバーでもある。

黒川博行(くろかわ・ひろゆき)/1949年、愛媛県生まれ。京都市立芸術大学卒業後、美術教師などを経て、1983年に『二度のお別れ』で作家デビュー。2014年に「疫病神」シリーズの『破門』で直木賞を受賞。そのほか『後妻業』など著書多数。2016年に行なわれた藤井聡太のプロデビュー戦など数々の観戦記を寄稿している。

※週刊ポスト2023年11月10日号

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