一松氏が書き上げたとされる『令和5年度一般会計補正予算(第1号)フレーム』
“見せかけ減税”オペレーション
そもそも首相に「減税」をそそのかしたのは財務省だ。今年7月の官邸人事で財務省は首相と同じ開成高校出身の一松旬氏(主計局主計官・総務課)を首相秘書官に就任させた。
「一松氏は東大法学部を経て1995年に入省。エリート揃いの財務省でも『10年に1人の逸材』とされ、将来の次官候補との呼び声が高い。主計官時代は岸田政権の看板政策である異次元の少子化対策や防衛費増額を手がけたから、次は官邸で防衛財源や少子化対策財源の増税スキームをつくるために首相秘書官に送り込まれた」(財務省OB)
いわば“増税請負人”としての起用だった。
ところが、官邸に来たものの、内閣支持率はみるみる低下し、岸田首相は「増税クソメガネ」と批判されて、とても増税を言い出せる状況ではなくなった。
支持率急落は財務省にとっても誤算だった。増税路線を敷くには、まずは支持率を上向かせなければならない。
「原点に戻ってこれからは経済、経済、経済でいこう」
首相が周辺にそう言いだしたのは、一松氏が秘書官になって1か月ほど経った今年8月、原発処理水の放出方針を決定するために福島を視察した時だったという。
そこから官邸では「支持率回復」のための“見せかけ減税”のオペレーションがスタートした。官邸官僚の1人が明かす。
「税収増の還元というのは財務省の新川浩嗣・主計局長のアイデアだ。財務省はいったん税収増分を1年限りの減税などで還元したうえで、コロナ対策で肥大化した財政を引き締めることを考えた。
減税で支持率が上向けば、その後、『財源は使い果たした』と増税に向けた環境も整う。還元の具体策の話は、最初は総理と側近の木原誠二・前官房副長官で進めていたが、9月の内閣改造で木原氏が官邸から去った後は、総理お気に入りの一松秘書官を中心に新川主計局長、青木孝徳・主税局長ら財務省ラインが定額減税をまとめた。実際には、今回の経済対策の原案も補正予算案の骨格も、一松氏がほとんど睡眠を取らずに1人で書き上げた」
いまや官邸で財政運営を仕切る一松氏は「影の財務次官」とも呼ばれる。