与党全体への見せしめ
とはいえ、財務省にとって「定額減税」は増税環境を整えるための国民への撒き餌にすぎない。だから税収増で財源が余っていると思われては困る。そこで岸田首相を操って軌道修正させていく。
本誌・週刊ポストは一松氏が書き上げたとされる『令和5年度一般会計補正予算(第1号)フレーム』と題する文書(A4判3枚)を入手した。右肩に「計数精査中・厳秘」と印字され、内容は予算規模13.2兆円、財源は税収が1710億円で、大半は国債発行で賄われる。
一松氏は高校の先輩である岸田首相に「減税で支持率回復」を吹き込んでおきながら、補正予算の草案には財務省の至上命令である「減税の財源はない」と、矛盾する内容を埋め込んだのである。(財務省広報室は「財務省が作成・公表する個別の資料の作成に係る具体的な経緯等につきましては、今後の円滑な業務に影響を及ぼす恐れもあり、詳らかにすることは差し控えさせていただければと存じます」と回答)
一松氏に対する“学歴コンプレックス”もあったのだろうか、首相はそれに従うしかなかった(岸田首相は東大受験に2度失敗して早大に進学)。財務省OBが語る。
「宮沢さんや鈴木大臣が税収増はすでに使ったと強調した第一の狙いは、与党に対する牽制です。総理は定額減税を1年間に限定する方針だが、自民党や公明党からは2年以上続けるべきという声が強まっており、減税を何年も続けられたら、増税ができない。財務省は与党議員に『税収増はあんたたちがバラ撒いてしまっただろう』と牽制し、岸田首相にも与党の言い分に引きずられないように強くクギをさした」
タイミングが“絶妙”だった神田財務副大臣の税金滞納辞任も、財務省にとっては政権にダメージを与えただけでなく、“言うことに従わなければこうなるぞ”という与党議員全体への見せしめになったと捉えられる。
岸田政権が弱体化することは、財務官僚にとってはむしろ都合がいい。
総理が人気取りの減税をしたくても、選挙対策のバラ撒きも、予算と税制を握る財務省の協力がなければ実現できない。政権基盤が弱い総理のほうが、総理の座を維持するために財務省により深く依存するようになるから操りやすいのだ。
「岸田首相が見せかけ減税の後、財務省の言うとおりに増税するなら協力するが、従わなければいつでも切り捨てる。たとえ政権が潰れても、増税路線だけ敷いてもらえばいい。財務省はこれまでもそうやって総理を使い捨てにしてきた」(同前)
いまや岸田首相の生殺与奪の権は完全に財務省に握られている。
※週刊ポスト2023年12月1日号