ビジネス

《EV界のF1》日産が日本勢で唯一参戦「フォーミュラE」世界選手権、2024年3月に東京で初開催へ 力を入れる背景に「ゼロエミッション」への挑戦

展示されたフォーミュラEカーと日産モータースポーツ&カスタマイズ株式会社・代表取締役兼最高経営責任者の片桐隆夫氏

展示されたフォーミュラEカーと日産モータースポーツ&カスタマイズ株式会社・代表取締役兼最高経営責任者の片桐隆夫氏

“キュイーン”という電子音のような音とともに、脱兎の如く走り出すフォーミュラカー。ありあまるパワーでタイヤがスピンし始めると、白煙が立ち上り、ゴムの焼ける臭いが漂う。しかし、通常なら聞こえるはずの耳をつんざくようなエンジン音やエキゾーストノートはまったくしない。ほとんど音を出さずに、フォーミュラカーが荒々しい加速を繰り返す様は、これまで見たことのない光景だった──。

 * * *
 ボディサイドに桜の花があしらわれた、美しいフォルムのフォーミュラカー。「ジャパンモビリティショー2023」で展示された日産のフォーミュラカーは各社がEVコンセプトモデルや、次世代モビリティを展示するなかで一際、注目を集めていた。

 そして冒頭のワンシーンはジャパンモビリティショーの屋外会場で開催された東京都主催のイベント「E-Tokyo Park」(10月28日)での光景だ。当日はフォーミュラEのデモ走行会が実施され、多くの来場客がその走行に息を呑んでいた。

 フォーミュラEとは、2014年から始まった電気自動車(EV)のフォーミュラカーレースの世界選手権で、音がほとんどしなかったのは、EVだからだ。

デモ走行では、前世代のGeneration2のフォーミュラEカーが登場。最高出力は335馬力、最高速度は280km/hだ

デモ走行では、前世代のGeneration2のフォーミュラEカーが登場。最高出力は335馬力、最高速度は280km/hだ

 このフォーミュラEの10シーズン目となる2023/2024年シーズンの第6戦が、2024年3月30日に東京で開催される。今回のデモ走行会は、そのPRのためのイベントだ。

 しかし、「東京のどこにサーキットがあるのか」と疑問をもつ人もいるだろう。フォーミュラEは、一部で例外はあるものの、市街地の特設コースで実施するのが原則のレースで、これまでニューヨークやロンドン、パリ、ベルリン、上海、香港、ソウルなど世界の主要都市で開催されてきた。排気ガスも爆音も出さないEVのフォーミュラカーだからこそ市街地での開催が可能で、逆に、都市に住む一般の人々にEVの利点をアピールするために市街地で開催しているとも言える。

東京大会は、東京ビッグサイトを囲む1周2.582kmのコースで実施され、一部に公道を含んでいる。タイトコーナーが多いテクニカルなコースで、45分+1周で争われる

東京大会は、東京ビッグサイトを囲む1周2.582kmのコースで実施され、一部に公道を含んでいる。タイトコーナーが多いテクニカルなコースで、45分+1周で争われる

 東京大会のコースは、東京ビッグサイトを囲む湾岸エリアに設定され、1周2.582kmのコースには一部、公道が含まれている。このコースを22台のフォーミュラカーが疾走する。東京都内の公道で自動車レースが実施されるのは、史上初めてだ。

都のイベント「E-Tokyo Park」登壇者。左から日産自動車の星野朝子副社長、東京都の潮田勉副知事で、MCをフォーミュラEで実況中継をしているサッシャ氏が務めた。星野氏は「日産が蓄積してきた技術を、このフォーミュラEという素晴らしいプラットホームに載せて、さらに磨きをかけたい」と述べた

都のイベント「E-Tokyo Park」登壇者。左から日産自動車の星野朝子副社長、東京都の潮田勉副知事で、MCをフォーミュラEで実況中継をしているサッシャ氏が務めた。星野氏は「日産が蓄積してきた技術を、このフォーミュラEという素晴らしいプラットホームに載せて、さらに磨きをかけたい」と述べた

 東京都がフォーミュラEを誘致した理由について、E-Tokyo Parkに登壇した潮田勉副知事はこう述べた。

「東京都では、モビリティ分野での脱炭素化に向け、現在、都内で新車販売される乗用車を2030年までに100%、非ガソリン化することを目標に様々な取り組みをしてるところで、サステナブルな社会を目指すフォーミュラEと目的を共有しました。来年3月の東京大会の開催に向けて準備をしています」

 開催の意思決定の背景には、「ゼロエミッションビークルの普及」を掲げる小池百合子都知事のイニシアティブがあったとされる。

日本勢で唯一「フォーミュラE」に参加する意義

 このフォーミュラEに日本から唯一参戦しているのが、日産だ。フォーミュラEが開幕した2014年から参戦しているレーシングチーム「e.dams」とパートナーシップを結び「日産e.dams」として2018年から参戦を開始。そして昨シーズンは「e.dams」を買い取り、フォーミュラEへの取り組みを更に強化した。日産はポルシェやマクラーレン、マセラティ、ジャガーなどのチームと競い、マクラーレンチームにもマシン・パワートレインを提供している。昨シーズンの戦績は、日産チームとしてはポールポジション1回、表彰台1回、マクラーレンチームと併せるとポールポジション3回、表彰台2回と健闘している。

 チームを統括する日産モータースポーツ&カスタマイズ株式会社(NISMO)代表取締役兼日産自動車(株)モータースポーツビジネスユニットヘッドの片桐隆夫氏は、日産がフォーミュラEに参戦する意義についてこう語る。

取材に応じる片桐氏

取材に応じる片桐氏

「日産は2010年に世界初の量産EVであるリーフを発売して以来、車両の電動化を推進してきました。今年のジャパンモビリティショーを見てもわかる通り、現在では各社共に車両の電動化開発に邁進しており、そのなかで日産としてもさらに技術を鍛えていく必要があります。

 フォーミュラEは弊社が蓄積してきた技術をアピールする場であると同時に、そこから技術を学ぶ、鍛える場になると考え、レースで得たノウハウを商品開発に活かせることから参戦を決めました。実際にレース車両の開発においては、日産のEV開発技術陣が加わって、制御技術やエネルギーマネジメント技術を提供するだけではなく、レースの過酷な環境から様々なことを学んでいます」

 日産は「Nissan Ambition 2023」の一環で、2030年までに電気自動車(EV)19車種を含む27車種の新型電動車を投入するという。これは都が掲げる「ゼロエミッションビークルの普及」に関する政策とも軌を一にする。同社はフォーミュラEに挑戦し続けることで、EV開発に関わる技術を磨き、「カーボンニュートラル社会実現」に向けたサステナビリティ戦略を描く。

デモ走行会では、日産リーフのレーシングカーバージョン「Nissan LEAF NISMO RC」も走行した。市販車のリーフと同じモーターを前後に2基搭載した四輪駆動のモンスターマシン。ドライバーは千代勝正選手

デモ走行会では、日産リーフのレーシングカーバージョン「Nissan LEAF NISMO RC」も走行した。市販車のリーフと同じモーターを前後に2基搭載した四輪駆動のモンスターマシン。ドライバーは千代勝正選手

バッテリーの電力をいかに効率的に使うか

 一方、市販車の技術がレースで活かされる場面もあるという。フォーミュラEは、他のフォーミュラカーレースと比べると、さまざまな違いがある。

「車体とバッテリー、タイヤは各チームとも共通で、モーターとインバータ、ギヤボックスなどが独自に開発する領域となります。イコール・コンディション(同条件)に近いので、ドライバーのテクニックと車両を制御するソフトウェア、チーム戦略が勝敗の鍵を握ります。特にバッテリーに貯めた電力をいかに使い切るかというエネルギーマネジメントが重要で、ゴールしたときには残量がゼロコンマ何%になっているということも、実際にあります」(片桐氏)

 バッテリーの電力をいかに効率的に使うか──F1と違い、各チームの車両に差がそれほどなく、狭い公道の道路幅で競われるので必然的にレースは激しくなる。

「すべてのチームに表彰台に上がるチャンスがある一方で、一つのミスが致命傷になりうる」(片桐氏)という。

 東京開催ともなれば、日本代表である日産チームには嫌でも注目が集まり、やはり“アレ”の期待も高まる。

「今シーズンは前半戦で苦労しましたが、後半戦で巻き返し、表彰台にも上がれました。調子は上がってきています。東京大会で期待されているのはひしひしと感じていて、プレッシャーはありますが、とにかくベストを尽くすことをお約束します」(片桐氏)

 日産チームの活躍に期待したい。

ジャパンモビリティショーで展示された現行のGeneration3の車両は、最高出力470馬力、最高速度322km/hと前世代より大幅に性能アップしている

ジャパンモビリティショーで展示された現行のGeneration3の車両は、最高出力470馬力、最高速度322km/hと前世代より大幅に性能アップしている

2023年5月「フォーミュラE」世界選手権はモナコの市街地を舞台に繰り広げられた

2023年5月「フォーミュラE」世界選手権はモナコの市街地を舞台に繰り広げられた

2023年6月にはジャカルタで行われた「フォーミュラE」世界選手権

2023年6月にはジャカルタで行われた「フォーミュラE」世界選手権

2023年7月、ロンドンで行われた「フォーミュラE」世界選手権

2023年7月、ロンドンで行われた「フォーミュラE」世界選手権。日本での開催が楽しみだ

トピックス

どんな役柄でも見事に演じきることで定評がある芳根京子(2020年、映画『記憶屋』のイベント)
《ヘソ出し白Tで颯爽と》女優・芳根京子、乃木坂46のライブをお忍び鑑賞 ファンを虜にした「ライブ中の一幕」
NEWSポストセブン
相川七瀬と次男の凛生君
《芸能界めざす息子への思い》「努力しないなら応援しない」離婚告白の相川七瀬がジュノンボーイ挑戦の次男に明かした「仕事がなかった」冬の時代
NEWSポストセブン
俳優の松田翔太、妻でモデルの秋元梢(右/時事通信フォト)
《松田龍平、翔太兄弟夫婦がタイでバカンス目撃撮》秋元梢が甥っ子を優しく見守り…ファミリーが交流した「初のフォーショット」
NEWSポストセブン
世界が驚嘆した大番狂わせ(写真/AFLO)
ラグビー日本代表「ブライトンの奇跡」から10年 名将エディー・ジョーンズが語る世界を驚かせた偉業と現状「リーチマイケルたちが取り戻した“日本の誇り”を引き継いでいく」
週刊ポスト
佳子さまを撮影した動画がXで話題になっている(時事通信フォト)
《即完売》佳子さま、着用した2750円イヤリングのメーカーが当日の「トータルコーディネート」に感激
NEWSポストセブン
国連大学50周年記念式典に出席された天皇皇后両陛下(2025年9月18日、撮影/JMPA)
《国連大学50周年記念式典》皇后雅子さまが見せられたマスタードイエローの“サステナブルファッション” 沖縄ご訪問や園遊会でお召しの一着をお選びに 
NEWSポストセブン
豪雨被害のため、M-1出場を断念した森智広市長 (左/時事通信フォト、右/読者提供)
《森智広市長 M-1出場断念の舞台裏》「商店街の道の下から水がゴボゴボと…」三重・四日市を襲った記録的豪雨で地下駐車場が水没、高級車ふくむ274台が被害
NEWSポストセブン
「決意のSNS投稿」をした滝川クリステル(時事通信フォト)
滝川クリステル「決意のSNS投稿」に見る“ファーストレディ”への準備 小泉進次郎氏の「誹謗中傷について規制を強化する考え」を後押しする覚悟か
週刊ポスト
アニメではカバオくんなど複数のキャラクターの声を担当する山寺宏一(写真提供/NHK)
【『あんぱん』最終回へ】「声優生活40年のご褒美」山寺宏一が“やなせ先生の恩師役”を演じて感じた、ジャムおじさんとして「新しい顔だよ」と言える喜び
週刊ポスト
林家ペーさんと林家パー子さんの自宅で火災が起きていることがわかった
《部屋はエアコンなしで扇風機が5台》「仏壇のろうそくに火をつけようとして燃え広がった」林家ぺー&パー子夫妻が火災が起きた自宅で“質素な暮らし”
NEWSポストセブン
1年ほど前に、会社役員を務める元夫と離婚していたことを明かした
《ロックシンガー・相川七瀬 年上夫との離婚明かす》個人事務所役員の年上夫との別居生活1年「家族でいるために」昨夏に自ら離婚届を提出
NEWSポストセブン
“高市潰し”を狙っているように思える動きも(時事通信フォト)
《前代未聞の自民党総裁選》公明党や野党も“露骨な介入”「高市早苗総裁では連立は組めない」と“拒否権”をちらつかせる異例の事態に
週刊ポスト