人間が生きるということは、どういうことなのか

 初回の派遣地が、紛争地だったということもあるだろう。

 日本に10か月ぶりに帰国したとき、身も心も以前とは違う感覚になっている自分がいた。成田空港はすべてがキラキラして見えて、トイレは住めるのではないかと感じるぐらいキレイな空間に思えた。

 そこから、国境なき医師団日本の事務局があるJR高田馬場駅まで向かう電車の中から見える景色。自分が30年近く住んでいた国なのに、すべてが未来にタイムトラベルしたかのようだった。

 ホテルでテレビをつけても、どの番組にも気持ちが入っていけず、日本の生活に再び適応するのに時間がかかった。

 いったい、この違いはどこからくるのか──。

 この地球で人間が生きるということは、どういうことなのだろうか。

 僕は、何度も考えざるをえなくなっていた。

 そこで出た結論がこれだ。

「日本のような国にいて、夢をもたない、追いかけないのはモッタイナイ」

「これができれば本望といえる究極の夢の実現のために、自分の命を大きく使って生きていこう」

 それから15年以上が経(た)ち、そのときの思いが初めての著書(『「国境なき医師団」の僕が世界一過酷な場所で見つけた命の次に大事なこと』)にある「命の次に大事なこと」というタイトルにつながっている。

 僕はこれからも、人道援助に携わっていく。自分のすべての知識、センス、スキルを総動員する必要があるきわめてやりがいのある仕事だからだ。

後編に続く

【プロフィール】
村田 慎二郎(むらた・しんじろう)/静岡大学を卒業後、就職留年を経て、外資系IT企業での営業職に就職。2005年に国境なき医師団に参加し、現地の医療活動を支える物資輸送や水の確保などを行うロジスティシャンや事務職であるアドミニストレーターとして経験を積む。2012年、派遣国の全プロジェクトを指揮する「活動責任者」に日本人で初めて任命され、援助活動に関する国レベルでの交渉などに従事。2020年、日本人初、国境なき医師団の事務局長に就任。現在は、長期的な観点から事業戦略の見直しと組織開発に取り組み、学生や社会人向けのライフデザインの講演も行っている。NHK総合「クローズアップ現代」「ニュース 地球まるわかり」、日経新聞「私のリーダー論」などメディア出演多数。

「国境なき医師団」の僕が世界一過酷な場所で見つけた命の次に大事なこと

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