『「国境なき医師団」の僕が世界一過酷な場所で見つけた命の次に大事なこと』(サンマーク出版)より

避難民キャンプの子どもたちと交流する村田氏(写真/MSF提供)

夢は、外国人になること

「カワジャ! カワジャ!」

 毎朝、僕たちの白いトヨタのランドクルーザーを見ると、大勢の子どもたちが笑顔で「カワジャ!」と言いながら、手をふってくれた。

 カワジャというのは、現地語で外国人のこと。当時、ダルフール地方にいる外国人は、ほとんどが人道援助の団体で働いている人たちだった。

 でも、あちこちでたくさんの子どもたちが「カワジャ!」と声をあげ、歩いていると手をつないできてくれた。

 はじめてのアフリカ、はじめての人道援助。日本を離れ、英語もそれほどうまく話せず孤独だったが、子どもたちから慕われていることが僕の心の支えだった。

「君の夢はなに?」

 日本のある新聞社のカイロ支局記者が、このダルフール地方避難民キャンプを訪れ、ひとりの男の子にこう質問したという。現地取材のついでにちょっとした興味本位で聞いてみたそうだ。

 日本であればお医者さん、社長、サッカー選手、最近ではYouTuberかTikTokerなど、いろいろあがることだろう。

 ところが、その子の口から出てきた言葉が衝撃だった。

「カワジャ! カワジャになりたい」

 外国人になりたい──。こんな状況からなんとか抜け出したい。それには外国人になるしかない、ということか。きっと、日本中にいる子どもたち全員に聞いても、このような答えはまず返ってこない。それぐらい、現地の状況は過酷だった。

 彼らが知っている外国人は、人道援助の団体で働く僕らぐらいしかいないはず。

 いつも僕は全身をユニクロでかため、靴やカバン、腕時計を含めても合計2万円もしない格好でいることが多かった。強盗などに狙われないためだ。チームのみんなも同じような格好だった。そんな僕たちは、朝に何台もの車でキャンプに来て、日中は病院で忙しく医療を提供するが、必ず夕方には帰っていく。

 一方、避難民キャンプのほとんどの子どもたちは靴さえ履いておらず、はだしで走り回っていて、服もボロボロ。しかもすでに何年も避難民キャンプでの暮らしを余儀なくされていた。

 彼らからすると、僕たちは例外なく、“小ギレイでお金持ちの外国人”のように見えていたのかもしれない。

 僕の小さいころの夢は、学校の先生になることだった。

 だがダルフール地方は、日本でなら子どもたちが普通に考えるそんな夢やあこがれさえも、自分たちの社会の中にもてる環境ではなかった。

 日本のような国でどれだけ不幸な気分にひたろうと、僕たちがどれだけ恵まれているか、よくわかるだろう。

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