量刑の理由については、次のように説明した。
「被害者らの恋愛感情につけこむ詐欺の犯行態様は卑劣というほかなく、被害者の中には2000万円を超える者もいて、数百万円から1000万円を超える者が複数いるなど、経済的被害が甚大であるのはもちろん、恋愛感情という心情を弄ばれた精神的被害も甚大で、詐欺被害の結果は相当に重大なものであると評価できる」
一方で、森川が送金ビジネスに関与したことは「一連の詐欺事案の主犯とまでは言えない」と判断した。森川は当初から「主犯ではない」と主張していたが、それを裁判所が認めた形だ。
判決文の朗読は事実認定の数が多く、裁判長が読み終わるまで約1時間半かかった。その間、森川はほとんど微動だにせず、椅子に座ってじっと聞いていた。
公判の被告人質問で、ガーナでの在りし日を涙ながらに語った森川の姿が想起される。
「(ガーナで)やっぱり一番楽しかったっていうか、充実してたのは子供たちのことで、ストリートチルドレンに駄菓子を配ったりしてて、やっぱり、こっち(日本)に戻る時も子供たちに、必ず帰ってくるから元気でいろよと。自分は日本でこんだけ報道されて、生きていけないのは分かっているんですけど、やっぱガーナに帰って、最後は、年齢も年齢ですし、子供たちに囲まれて死ねればいいなと思っていますね。孤児院をやるか、その里親になるかって感じですかね」
しかし、森川は昨年8月に逮捕されてから現在に至るまで、ガーナの友人や知人に手紙は送っていない。
恵まれない子供たちに孤児院を設立──。詐欺師が描いた壮大な夢は、どこまでも虚しく聞こえた。判決文を聞いた今も、その思いは揺らいでいないのだろうか。静まり返った法廷で、手錠に腰縄を装着された森川は、弁護士と二言三言交わし、浮かない表情で退廷した。
(了)
◆水谷竹秀(みずたに・たけひで)/1975年、三重県生まれ。上智大学外国語学部卒。新聞記者、カメラマンを経てフリーに。2004~17年にフィリピンを中心に活動し、現在は拠点を日本に移す。2011年『日本を捨てた男たち』で開高健ノンフィクション賞を受賞。2022年3月下旬から5月上旬にはウクライナで戦地を取材した。近著に『ルポ 国際ロマンス詐欺』(小学館新書)がある。