ヒロインは戦いに葛藤を持つのか?
令和の十兵衛につけられたキャッチフレーズは「脱げば脱ぐほど強くなる」。敵の刀で着物を斬られ、肌が露わになっていくほど剣が冴える。
女性キャラのアクションを描く時、男のキャラとの違いはあるのか。そう訊くと、永井は動作途中の「止め絵」について語った。
「動いている途中、すごくかっこ悪いポーズになる瞬間もあるはずですが、そこは拾わないようにしています。アクションのなかで最も綺麗な瞬間を描く。男のキャラより、女のほうが余計にそう思いますよ」
戦うヒロインという永井の発明が、世代を超えて読者の心を掴んでいる要素のひとつだろう。
「僕が描く女性の体のラインの源流は、ミロのビーナス。だって、それ以外に裸を見ることができなかったから(笑)。そこからは近所の映画館で食い入るように見たヨーロッパの女優がイメージの源泉ですね。ジャクリーヌ・ササール、シルヴァ・コシナ、ジーナ・ロロブリジーダ……好きでしたね。女性のヌードは永遠に美しいという感性をいつも大事に持ってきました」
そうしたイメージが、如月ハニーの、そして柳生十兵衛のフォルムにつながった。
一方でハニーと十兵衛には大きな違いもある。ハニーはアンドロイドとはいえ柔らかな身体のラインを持つ一方、十兵衛は割れた腹筋に鍛えられた上腕が描かれている。
「十兵衛は剣豪ですから、女性とはいえ筋骨隆々のアスリート体型。そして剣豪として男性的な心を持っている。
前に書いた『デビルマンレディー』も戦うヒロインですが、女性性が強いので、戦うことが苦しいんです。彼女には“なぜ戦っているのか”という悩みがあるゆえに、僕も描くのがつらかった。だから十兵衛は、身体は女性だけど、自分は男と思っているほうが面白く描けるんじゃないかと思いました。普通の女性だと、画にもどこか弱さが出てしまいます」
(後編につづく)
取材・文/輔老心
※週刊ポスト2023年12月15日号