先進国で唯一「がん死」が増えている日本
翻って今の日本で実施されている健康診断は、血液検査などで肝臓や腎臓の疾患が見つかることはありますが、一般的には脳卒中と心筋梗塞の予防のために行われている検査項目が主体です。また、自治体などが積極的に呼びかけているがん検診は、がんの早期発見につながることはあっても、がんを減らすことには寄与しません。
普段、健康の不安がなく過ごしている人でも、例えば健康診断で血圧や血糖値が「高い」と指摘されることは多いと思います。ちなみに日本の高血圧患者は約4300万人とされ、赤ん坊から老人まで含めた全人口のおよそ3人に1人が高血圧です。実際、降圧剤を処方されて飲んでいる人は非常に多く、日本で最も多く売られている薬となっています。
ところが、そのように頻繁に使われる血圧を下げるための薬が、死亡率を下げることを示す国内の研究データは何もありません。
それらの事実をトータルで考えると、健康診断を受けることで早期に医療が介入することにより、フィンランド症候群のように、かえって健康を害する人のほうが多いのではないかとの疑いが生じるのは、日本にも当てはまることだと思います。
私は、死因第1位が「がん」の日本では、盛んに行われる健康診断による負の影響があるのではないかとの仮説を持っています。健診の結果、数値が悪いことで「薬を飲まなきゃ」「我慢しなきゃ」「健康に気をつけなきゃ」というプレッシャーが新たなストレスになり、それが免疫力の低下につながり、がんの発症にまで影響する恐れがあるからです。
がんの発症は私たちの体に備わる免疫機能の状態に関わっていますが、その機能は加齢に伴い低下してしまいます。つまり、がんの予防や再発防止には、免疫力の向上が欠かせません。そして、免疫力を上げるには、規則正しい生活や十分な睡眠、バランスの取れた食事とともに、「ストレスを溜めない」ことが大事なポイントです。
免疫と脳や心の関係から考えると、「健康のために」と過剰な節制をすることは、がんに立ち向かうための免疫機能の向上にとって、ストレスが増えてむしろデメリットになり得るのです。
日本は現在、先進国の中で唯一、がん死が増えている国です。そうした事実に正面から向き合い、これまで信じ込まされてきた“健康常識”を疑ってみる必要があります。(了)
【プロフィール】
和田秀樹(わだ・ひでき)/1960年大阪府生まれ。東京大学医学部卒。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、立命館大学生命科学部特任教授、和田秀樹 こころと体のクリニック院長。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。『80歳の壁』は2022年の年間ベストセラー総合第1位(トーハン・日販調べ)に。