阿部亘医師
カテーテルかバイパス手術か
心臓と血管の病気の中で、特に専門的な治療の対象となる病気は大きく「虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)」「心臓弁膜症」「大血管疾患」の3つに分かれる。
虚血性心疾患が起きる場所は、心臓の表面を覆うように走り、心筋に酸素と栄養を送る重要な血管である「冠動脈」だ。冠動脈は大きく3本に分かれており、さらにそこから何本も枝が出ている。それらのうちいずれかの血管が何らかの原因で狭くなるのが「狭心症」、「プラーク(脂質やカルシウムなどが沈着したもの)」などで詰まり、血液が充分に供給されなくなった状態が「心筋梗塞」だ。
冠動脈が詰まると、その先に血流が届かなくなり、心筋が壊死してしまう。したがって命にかかわる場合には、一刻も早く血流を再開させる必要がある。そのために行われる治療法は主に2つある。手首や足の付け根の動脈からカテーテル(細長いチューブ)を挿入してバルーン(風船)などで広げる「PCI」(経皮的冠動脈インターベンション)と、血管を移植して血液の迂回路を作る「冠動脈バイパス手術」だ。前者は主に循環器内科医が、後者は心臓血管外科医が手がけている。
PCIの技術やデバイス(治療器具)が進歩した結果、多くをカテーテルだけで治療できるようになり、開胸して行う冠動脈バイパス手術は減少傾向にあるという。わかまつインターベンションクリニック院長で、循環器内科医の阿部亘医師は「現状、9割がPCIによる治療を選択する」と話す。
「全身麻酔を施され、長時間の執刀に耐えなければならないバイパス手術とは違い、カテーテルの治療は挿入する部分だけに麻酔をするので、意識のある状態で患者さんと医療スタッフがコミュニケーションを取りながら行えるのが大きなメリットだと思います。
実際、私のクリニックでは患者さんの緊張を和らげるためにBGMをかけたり肩をもんだりして、リラックスした雰囲気で治療を進めています。かかる時間も部位や箇所によりますが、だいたい1時間程度で終わってしまいます。しかし、必要であるケースは外科とコラボレーションさせていただいています」
PCIではこれまで血管をバルーンで広げた後にステント(金属の筒)を留置して、血管の幅を広く保つ治療が行われてきた。留置後、一定の確率でステントの内側に厚く膜ができて再び血管が狭まる「再狭窄」が発生するという問題点があったが、それを予防する薬剤でコーティングされたステントが出現し、その治療成績は良好で積極的な治療が展開されてきた。