TAVIの実績はチームで決まる
心臓には「右心房」「右心室」「左心房」「左心室」という4つの部屋があり、各仕切りに、血液の逆流を防ぐ「弁」がある。それらが正常に機能しなくなり、血液が逆流してしまうのが「心臓弁膜症」だ。胸痛、息切れ、むくみなどの症状が出て、放置すると心不全になり、突然死することもある怖い病気だ。
心臓弁膜症には、弁の閉じ方が不完全になり、血液が逆流して起きる「閉鎖不全症」と、弁がうまく開かなくなることで起きる「狭窄症」の2つのタイプがある。
閉鎖不全症の場合は、弁を修復する「弁形成術」が行われるが、症状が進行している場合や狭窄症の場合は、弁を切除して人工のものに取り替える「弁置換術」が行われる。
4つの弁のうち、特に治療の対象になるのが、左心房と左心室の間にある「僧帽弁」と、左心室から大動脈への出口にある「大動脈弁」だ。従来、弁膜症の手術は人工心肺を使い、心臓を止めて行う開胸手術で行われてきた。
しかし近年、大動脈の弁狭窄症に対して、太ももの付け根の動脈などからカテーテルを挿入して弁をバルーンで広げるとともに、ワイヤーを使って送り込んだ人工弁を留置する「TAVI(またはTAVR=経カテーテル大動脈弁置換術)」が普及し、2013年から保険適用となった。体にかかる負担を小さくした低侵襲治療として注目されている。東北大学病院心臓血管外科長・教授の齋木佳克医師はこう話す。
「TAVIが登場した当時は開胸手術の方が低リスクでしたが、その後デバイスが改良されて、安全性が高まりました。また、症例をこなすにつれて治療時間が短くなり、患者さんの回復も開胸手術よりも早いため、手ごたえを感じるようになっています。
実際にインターネットなどで調べて、自分からTAVIを希望して受診される患者さんや、手術に抵抗があり『カテーテルならどうですか』と言われて、当院に紹介されてくる人もいます」
ただ、TAVIには問題点もある。金沢大学附属病院心臓血管外科診療科長・教授の竹村博文医師が解説する。
「懸念は長期成績がわからないことです。若い人はカルシウム代謝が活発であるぶん、人工弁に石灰が沈着しやすいという問題点があります。開胸手術と比べた試験のデータが積み重なり、アメリカのガイドラインでは55才から75才までは、開胸手術でもTAVIでもいいことになりましたが、まだ治療後10年までの成績しかわかっていません。
一方、開胸手術の場合は20年以上の成績が出ています。ですから、余命が10年以上ある人は、開胸手術の方がいい。当院ではTAVI弁を通す血管の状態がよければ、80才以上では無条件でTAVIを選択しますが、75才から80才で、どちらでもいいという人は、循環器内科医と心臓血管外科医の『ハートチーム』で相談して適応を決めています」
(後編へ続く)
※女性セブン2024年1月18・25日号