渡辺勲氏が語る
仮に、俊樹氏が刑事事件の当事者となれば、今後の和歌山県政界に大きな影響が及ぶ可能性があるため、関係者に緊張が走っていたわけだ。
二階氏の選挙区である和歌山2区(旧3区)には「2つの火種」がくすぶってきた。一つ目は、首相への野心を隠さず衆議院への鞍替えを画策してきた参議院議員の世耕氏と、世耕氏が狙う選挙区を地盤とする二階氏のつば迫り合いだ。
「二階王国」の奪取を狙う世耕氏にとって、「強み」としてきた安倍氏の後ろ盾を2年前の暗殺事件で失ったうえ、さらに今回の一件で衆議院に転じるハードルは高くなった。クリーンさや論理的な語り口が一定の評価を得てきたが、1500万円もの不記載が明らかになった。「秘書に任せきりの状況だった」と繰り返した弁明は有権者の常識とはかけ離れている。
今回の事件が影響を及ぼしそうな二つ目の火種は、“ポスト二階”をめぐる兄弟間の後継レースだ。3人の息子に恵まれた二階氏。なかでも和歌山政界で国会議員に勝るとも劣らない存在感を示してきたのが、長男で50代後半の俊樹氏だ。
その俊樹氏について、和歌山県政では二階氏の一期先輩にあたる元公明党県議で、今は県域の情報誌「和歌山〈21政経フォーラム〉」を主宰する渡辺勲氏はこう語る。
「俊樹君は地元の二階事務所を長年仕切ってきて、父・俊博を当選させてきたのは自分だという自負を持っています。ただ、そのせいか、まるで自分が父・俊博そのものであるかのような態度で市役所や地元の人に接していたことから、これに反発するサイレントマジョリティが形成された経緯がある」
そう渡辺氏が述懐するのが2016年の御坊市長選だ。黒子の立場から一転、表舞台にデビューしたが、二階氏の支持者が二分され、二階氏の影響力を背景に大勢の国会議員を動員するも、俊樹氏は現職に敗れた。
長男か、三男か
その後、二階氏後継として有力視されるようになったのが、全日本空輸の元社員という経歴で、10年ほど前から二階事務所入りした40代後半の三男の伸康氏。
「体格も大きく威圧感のある俊樹さんに比べると、伸康さんは物腰は柔らかい」と、両者を知る人たちは口を揃える。事情通はこういう。
「数年前、俊樹さんに、伸康さんについて質問したことがあるんですが、“旅人みたいな者”という言い方で語っていましたよ。2人の間には緊張感があるんだと感じた」
兄弟間の暗闘が見え隠れするなか、地元が朝日新聞の報道に一瞬過熱したのは、俊樹氏が立件され公民権停止となるなら、兄弟間の後継レースに終始符が打たれるか──そんな観測へとつながるからだろう。
ただ、前述の通り立件されたのは、俊樹氏ではなく、東京の随行秘書。一方で、「事務所の金のことは俊樹氏が握っている」という話も聞いてきた。
俊樹氏は不記載を知っていたのか。そんな問いを胸に1月18日、筆者は、和歌山市から特急くろしおに乗って1時間。紀伊半島南西部の御坊市に俊樹氏の自宅を訪ねたが、残念ながら不在で、家人は「いつ帰ってくるかわからないんです」と話した。また三男・伸康氏を訪ねて御坊市の隣の田辺市の二階事務所にも足を運んだが、事務所は無人だった。