すべてリニアの工事を止めるための方便か
これまで川勝知事は、「トンネル工事で地下水が流出し、大井川の水資源が減少する」「工事残土置き場が深層崩壊(表層崩壊よりも深部で発生し、深層の地盤までもが崩壊土塊となる比較的規模の大きな崩壊現象)を引き起こす」「トンネル工事が生態系へ影響を与える」などを理由に、リニアの工事に許可を出さなかった。こうしたこれまでの川勝知事の主張にも、須田氏は疑義を呈する。
「大井川の水問題にしても、JR東海は東電に交渉し、東電の田代ダムから静岡県内に全量を戻す『田代ダム案』を提案した。これで決着するかと思ったら、『水利権の問題はもともとあってリニアとは関係ない。水質も違う』と言い出している。さらに生態系への影響や工事残土置き場の問題と、次々に難癖をつけ、ゴールポストをずらし続けている。すべてリニアの工事を止めるための方便ではないかと疑っています」
川勝知事の“何が何でも工事を止める”という姿勢が露わになるにつれ、違和感を持つ人が増えている。当初は、ゴネて静岡県に何らかのメリットを引き出したら工事を認めるだろうと楽観視する向きもあったが、まさか、2027年の開業を延期せざるをえなくなるまで反対し続けるとは、誰も予想しなかったはずだ。
川勝知事は以前、リニア問題の進捗状況を登山に例え「1合目よりは少し進んだ」としていたが、年頭会見では「1回下山したということではないか」と述べている。この発言に、須田氏はこう憤る。
「川勝知事は、リニアの工事をさせないのは、環境保全がされていないからだという主張にシフトしている。それで、国交省が専門科会議を立ち上げて環境アセスをして問題ないという結果を出したのですが、知事は『環境省がやらなければ認めない』と、昨年12月5日に環境省に要望書を提出するアクションを起こした。つまり、生態系への影響の問題は、ゼロから仕切り直すと宣言したわけで、呆れるほかありません」
それにしても不思議なのは、川勝知事はなぜここまで頑なにリニア建設を妨害し続けるのかだ。リニアが通っても静岡に駅はできないから、何のメリットもないといわれているが、リニアが開業すれば、東海道新幹線の「のぞみ」の速達機能がリニアに代替されるため「ひかり」や「こだま」が増発され、静岡県内の駅に止まる本数が増え、利便性は上がるとみられる。決してメリットがないわけではない。
静岡県はリニア問題について2月5日に会見を開く予定だという。そこで何が語られるのか、注視したい。
◆取材・文/清水典之(フリーライター)